授業No.025
授 業:「出てこい!自分」
対 象:世田谷区立船橋小学校
日 時:2009年1月16日
25回目の授業は、世田谷区立船橋小学校の6年生66名を対象に行ないました。講師は画家の籔内 博氏(′84年油画専攻卒業)です。卒業を間近に控えた6年生が、墨で等身大の自画像を描き、オリジナルの落款を押しました。姿見を覗いて、自分より大きな紙に描くダイナミックな制作です。授業の最後には、みんなの作品を壁に立てかけて鑑賞し、籔内先生から一人ひとりに向けて講評を行ないました。
講 師:籔内 博
(画家/1984本学油画専攻卒業) 

2009.1.16 fri. 8:45 ~9:15
「レクチャー」
墨で描かれた作品をスライドで見ます。藪内先生が地元の風景や祭りを描いた作品、宮本武蔵、白隠慧鶴、ルオーなどの作品を紹介しました。墨の濃淡や筆のタッチの違いで、絵の印象がずいぶん変わることを知りました。





9:15 ~9:35
「デモンストレーション」
3パターンに薄めた墨で先生がお手本を描きます。薄い墨から順に塗り重ねると、べた塗りにならず、深みのある黒を表現できます。線の太さ・細さでも画面の印象ががらりと変わります。「かすれ」や「にじみ」など、偶然できる線もあるかもしれません。いろんな発見をしながら挑戦しましょう!


9:40 ~12:20
「制作」
「自画像を描く」・「落款づくり」・「縁どり」の3グループに分かれて、約25分間隔で交代しながら作業をしました。

自画像を描く
メジャーで身長や手足の長さを測り、画面に鉛筆で印をつけておきます。墨は水で薄めて好きな濃度を自分でつくります。準備ができたら鏡を覗いて、いよいよ筆入れです。いったん描き始めたらやり直しがきかないので少々緊張しますが、描いた線を次に生かして描き進めます。自分の姿を大きな紙いっぱいに描いてみましょう。

落款づくり
自分のサインを落款にします。名前やマークのデザインを断熱材に転写し、線香で焼いて凹凸を出して、朱インクで押します。

縁どり
額縁のように模様を描きます。自画像より濃度を薄めた墨で描くと、自画像が強調されて見えました。逆に濃い墨で描くと画面が引きしまるなどの効果が表れました。



13:15 ~14:25 
「講評」
みんなの作品を壁に立てかけて、講評会です。一人ひとりの作品に籔内先生からコメントをいただき、描いた自画像の横に立って写真撮影をしました。





 

 

 

 

 





出前アート大学を終えて
講師 籔内 博(画家/1984年本学油画専攻卒業)

 「等身大の自画像を水墨で描く、落款を彫る、模様を加え仕上げる」 この大仕事を船橋小学校の6年生66名にチャレンジしてもらった。
まずスライドで古今東西の墨絵人物を見てもらう。白隠、鉄斎、ルオー、井上雄彦などだ。そうして多目的スペースに行き、ひととおりの実演の後、いよいよ制作開始。姿見が他者をさえぎって、広い空間にもかかわらず、「自分」と「鏡の自分」だけの対峙、という個の空間があらわれたこと・墨と画仙紙という素材がやり直しのきかないものなので、いやおうなく前にすすみ、逃げることのできない時間が生まれたこと・姿見が全員分ないので3グループに分かれ、「描く」「落款作り」を交代で繰り返したことで、ある種の躍動感を封じこめたものになったこと・そこにスタッフのバックアップが入り、66枚の「自分」は出現した。すべてを立てかけるとホールがざわめきだした。見渡せば132人いる。
 昼からの講評は濃密な時間だった。絵の特長を瞬間に見れば、逡巡が、苛立ちが、快感が、恐れが、勇気が、安堵が、決意が、絵の姿を借りている。それを前向きに指摘する。同じ材料を使っているのに色までが違う。今日の「自分」を形作ったすべてがここにある。本人より本人らしい66人が現れた。
 すぐれた芝居は翼があって観客を遠く高く運んでくれるように、この日は参加者全員で少し遠く高く飛べたと思う。1月16日は始まりから終わりまでドラマチックなストーリーに満ちたパフォーマンス劇だった。すべての関係者の方に感謝している。
ありがとう!