授業No.036
授 業:「はんぶん うまってます〜海辺の空想彫刻〜」
対 象:茅ヶ崎市立茅ヶ崎小学校5年1組28名
日 時:11月22日(月)
36回目の授業は、茅ヶ崎市立茅ヶ崎小学校にて、5年1組28名の児童を対象に行ないました。講師は、美術作家の本間 純 氏(’90立体デザイン)です。 今回の授業では、砂浜に埋まっているとおもしろいもの、思いもよらないものを考え、砂の下の形を想像しながら、見えている部分をベニヤ板で作りました。そして、完成した作品「空想彫刻」を実際に海岸に埋め、ひとり1人埋まっているものは何かを発表しました。「空想彫刻」をつくることで、児童たちは何を発見したのでしょうか?
講 師:本間 純 (美術作家/1990年本学立体デザイン卒業)

2010.11.22 mon. 08:45〜 09:30
「作品紹介・空想彫刻と作り方の説明」

本間先生が作品をスクリーンに映しながら、紹介を行ないました。
水の流れる透明な壁ごしに風景が抽象画のように見える作品や、風が吹いていないのに、はためく旗の作品など、見る人の想像力を刺激する作品が次々と紹介されました。
そして、「空想彫刻」についての説明です。
「空想彫刻」は、半分が地中に埋まり、半分が地上にでている彫刻です。今回は、砂浜に埋まっているとおもしろいもの、思いもよらないものを考え、地中に埋まった見えない部分を想像しながら、見える部分をベニヤ板で作ります。完成したら、作品を海岸に埋め、ひとり1人埋まっているものが何かを発表するそうです。
半分見えていて、半分見えない身近なものとして、木や氷山なども紹介されました。
普段、当たり前に思っているものについて想像をひろげると、目の前の世界がさらに広がっていくように感じるから不思議です。


09:35〜10:20
「アイデアのスケッチ・板をカットする」

どんな空想彫刻にしようか考えたら、アイデアを紙にスケッチをします。最初はアイデアに苦心していた児童ですが、頭をひねるうちに思いもよらぬ組みあわせや見せ方など、面白いアイデアが次々と飛び出しました。
今回使う紙は、表が白色の無地、裏は本間先生の描いた灰色の砂模様になっています。表にスケッチを描いて下部を折り返せば、地中に埋まる部分が紙の下に隠れる仕組みです。スケッチが描けたら、どこまで埋め、どこから見えると面白いかを考えながら、折り返す位置を決めました。

次に、地上にでる部分を板に下書きし、カットします。
本間先生から、道具の使い方ややり方のコツを聞いた後、いよいよ実践です。
まず、いらない部分をノコギリで切り落とし、細かい形は電動糸のこで切り出します。
普段から、木を使った造形活動を積極的に行なっている茅ヶ崎小学校。ノコギリの扱いは慣れたものです。事前に練習をして、今回が二度目の電動糸のこは、板が薄く大きいため少し緊張気味。本間先生やアシスタントスタッフが見守る中、手元に神経を集中させ、注意深くカットを進めていきました。






10:40〜11:25
「紙ヤスリでみがく・杭をつける」

カットが終わった児童から、板の切り口を紙ヤスリでみがきます。ザラザラの切り口がスベスベになるまで、手で触り、確かめながら進めます。

次は地中に差しこむための杭の打ち付けです。地中に埋める長さは約20センチ、杭が板から飛びだしてしまう場合は、ノコギリで杭をカットします。そして、杭を板の中央にあて、金槌で釘を打っていきます。金槌の扱いも実に見事です。児童たちは手際よく釘を打っていきました。




 

11:30〜12:15
「色を塗る」
最後は色塗りです。絵の具コーナーで必要な色を選んだら、刷毛で作品を塗っていきます。色を混ぜたり、全体を塗った後、細かい部分を描き加えたり、中には、木ならではの木目を残し、色を塗る部分との組み合わせを考えて進める児童もいました。
形に色が加わることで、イメージがさらにはっきりと浮かび上がり、作品の存在感が増していきました。

 

 

 


13:45〜14:30
「砂浜に設置する」

午後は学校から茅ヶ崎海岸へ移動し、いよいよ設置です。
浜辺では最初に本間先生が、作品の置きかたを実演しました。作品同士が重ならないように置くこと、作品が浮いて見えないようしっかり砂に埋め込むことがポイントです。
話の後、グループに分かれて作業開始です。最初に作品と作品の間を2mぐらいはなして置き、全員の設置場所を決めます。次に穴を掘って杭ごと作品をねじこみ、アシスタントスタッフが大きな木槌で杭を打ち込みます。最後に、作品のまわりに砂を集めたら完成です。
出来上がった風景は圧巻です。海を背景に、幅約55メートルにわたって一列に作品が並びます。風景が少しずつ変わっていく様子に、浜辺を散歩する人たちも興味深く見守っていました。「はんぶん以上うまってました」




14:35〜15:20
「発表会」

発表会では、児童が1人づつ作品の前に立ち、埋まっているものが何かを発表しました。
まず最初に、砂浜に埋まっている部分を隠したスケッチをみせながら、地中に何が埋まっているかを友達に想像してもらいます。そして、何人かのイメージを聞いたあと、折り返したスケッチをひらいて、アイデアを発表します。
元気一杯で、積極的な発言や活気あるクラスの雰囲気が魅力の5年1組。
少し離れて風景の中にある作品を見ているはずが、自分のイメージを伝えたり、やりとりに夢中になっているうちに、気づけば皆で作品を取り巻いていることも。
「もっと後ろにさがって、さがって」この呼びかけが繰り返されるほど、盛り上がった発表会となりました。活発なやりとりをしながら、自分だけでなく、クラスメートの考えを知ることで、想像の世界がさらに広がっていったことでしょう。


「まとめ」
1日じっくりと時間をかけ、取り組んだ本間先生の授業。
空想彫刻をつくることを通して、想像することは自由自在であること。想像力で風景やものの見え方が変わり、広がること。クラスメートが想像したことを垣間見ることで、ものの見え方には違いや多様性があり、目にみえることだけが全てではないことを発見をする授業となりました。
■おわりに
授業の実施にあたり、茅ヶ崎小学校 飯淵 進校長先生、野上 浩教頭先生、5年1組担任の宮崎顕嗣先生、窓口となって頂いた寺島栄子先生をはじめとする先生方、茅ヶ崎市教育委員会 小野範子様に多大なご理解とご協力を賜りました。



講師 本間 純 (美術作家/1990年本学立体デザイン卒業


初めて会った5年1組のみんなは、カメラを向けるとピースサインで元気に駆け寄ってきた。その後近くの茅ヶ崎海岸を見て、この海辺いっぱいに彼らの元気さが活きることをやりたいと思った。
「空想彫刻」は地上に出ている部分と地中に埋まっている部分からなる。砂浜に埋まっていると面白いものを考え、地上に出ている部分だけをつくる。ポイントは地中の見えない部分を想像し、また想像させること。見えない部分は実際にはつくらないから、どんな奇想天外をやってもいい。想像力でものの見え方が変化し広がること、違いや多様性があること、目に見えることが全てではないことをみんなで発見できればと考えた。
授業の最後には、埋まっている部分がどうなっているかをそれぞれが作品の前で発表するのだが、実際に完成した空想彫刻たちは何と自在だったことか!地中の様子を想像し発表し合うたびに、生徒も僕もスタッフも楽しくて興奮してどんどん前のめりになっていったのだった。ひとしきり発表が終わり、少し離れてもう一度みんなで彫刻たちを眺めた。そこにさっきまで見ていた曇り空の海辺の風景だけでなく、その下に広がる豊かな世界をしっかりと感じることができたのだった(それは僕だけではなかったはずだ)。この授業は彫刻をつくることで終わらず、砂浜に埋めて完成させるというその場でしかできない体験をするプロジェクトだった。すばらしいチームワークで共に授業をつくり上げてくれた運営、サポートスタッフに感謝します。