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はじめてつくるものをつくる
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sensoriumというウェブサイトを仲間連中と企画し作り始めてから、もう二年間が経った。昨年9月には、オーストリアのArs Electronicaで、ネット部門の金賞をいただくこともできた。しかし、自分達が作っているものはいったい何なのか。sensoriumは、アートともエデュケーションともエンターテイメントとも分類しにくい。仮にPowers of Tenのような表現が理想だとしたら(理想ではある)、あれと同じく一種のエッセイとして作られているのだろう。それは何に関するエッセイなのか?

コンテンツをいくつか具体的に紹介してみる。まず、Breathing Earthは、地球上で起きた過去二週間のすべての地震を、ループ状のアニメーションとして視覚化するウェアだ。データは毎日自動的に更新される。世界各地の地震データはインターネットを通じて入手されており、複数のウェブサーバーのコラボレーションによって表現が成立している。

では関係表現には他にどのような方法があるのだろう。関係だけを記述する方法としてグラフ構造というしくみがある。これはモノどうしの関係の度合いを線で結んで表したようなしくみである。これだとモノどうしの関係が一目瞭然になる。しかし、これは視覚的に煩雑になりがちで、視認性や管理という観点から少々問題がある。が、関係を記述するのには非常に適したしくみである。

Web Hopperは、今この瞬間にWWW上を移動している人々の視聴覚化。慶応大学SFCのNOCを通過して海外のウェブサイトを見て回っている人々の軌跡を、リアルタイムで世界地図上に描写していく。同じ時間、違う場所にいる人々の共時的な存在が、一つのグラフィックの上に集まっている。

BeWare01: Satelliteは、前出の展覧会会場用に作ったプロジェクトで、気象衛星からのデータをインターネット越しに入手し、幅9cm・長さ160cmのプレート上に衛星から見た地表の画像を投影。映像は、衛星の飛ぶ速度に合わせゆっくりとスクロールし、同時にプレート面に触ると地表の温度差が感じられる。衛星からの地球(おもに雲で覆われており冷たい)を感じる、インターネットに繋がった空間インスタレーションだ。

各プロジェクトに共通しているのは、「インターネットを通じて、生きている世界を感じる」というsensoriumのメインテーマだが、同時にインターネットというメディアでしか実現できない表現とインターネット上で最もしっくりと来る表現を作り出すことに集中している点でもある。

シネマトグラフという活写技術は、その後数十年間の試行錯誤を経て、ようやく「映画」という表現にたどり着いた。インターネットというメディアの進化も、それなりの時間を必要とするはずだ。現時点で明らかなのは、インターネットの可能性が、イコール私たち自身の可能性であると言うことだろう。私たち次第。印象派の人々がチューブ入りの絵の具という最新のテクノロジーを手に室外へ飛び出し、溢れる光を描きつづけたように、生まれたばかりの新しいメディアやテクノロジーを前にして何か本質的にワクワクすることができなかったら、この時代に生きている意味がないんじゃないか。

自分達はsensoriumを、インターネットの可能性に関するエッセイとして作り続けているのかもしれない。美術大学はどうだろう。シネマトグラフと映画のように、インターネットという技術群からいつか二度目の誕生をむかえる表現があるはずだ。まだ名前のついていない何かが。大学のようなモノづくりの場こそ、ブラウザー上の表層的なデザインに終始しないで、せっかくの可能性を思いっきり遠くまで投げて欲しいと思う。

sensorium
西村 佳哲


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