ネジの話


小川 信濃






    (わたしは、多摩川の土手で、)ネジを拾ってきました。そのネジというのが、

1. Y氏の行動
 Y氏の調子がおかしくなったのは、丁度一週間前からだった。
 見かけの割に気の小さい彼には、流行の風邪も新しい心臓病にかかったかの様な騒ぎだった。考えれば考えるほど心配になる彼は、友人の医者を訪れたが、やはりただの風邪と診断され、薬を受け取って帰ろうと、多摩川の土手を歩いていた。その時だった。
 のどの奥のイガイガがくしゃみとなって口から出た、その瞬間だった。
 ………カラン…?……
 足元を見ると、ネジが一本転がっていた。彼の口、いや身体からネジが飛び出したのだろうか?そんなことはあり得ないと頭では思いながらも、そのネジを拾い上げた彼は、再び小さくくしゃみをすると、おもむろにネジを口の中へほうりこみ、それを飲み込んだ──。

  2. 上野毛に住む小学生S君の話
 「うん。あの日は友達のAと多摩川で遊んでたよ。壊れたチャリンコ分解してた。したらさ、いきなりさ、Aの奴がさ、分解したチャリンコのチェーンを投げてくるからさ、ボクもお返しにサドルを投げ返してやったんだ。それからネジとかボルトとか投げっこして遊んだよ。
 え?体の大きなおじさん?ああ、うん、知ってる。だってボクが投げたネジ、そのおじさんくしゃみしたあとに、拾って食べたもん。頭、おかしいんでしょ?あのひと。シンショーって言うんだよね、ああいうの。」

  3. 担当医Kさんの話
 「あいつとは中学の時同じクラスでした。…あいつ、なんかヘンなモン飲んじまったらしいですね。何、飲んだんですかね?
 あいつ、体はでかいくせに気が弱くてね。僕の方はその逆で。僕、ヒョロヒョロだけど体だけは丈夫で。だから何かと気になってたんですよ。そんな縁で、僕が担当医でした。
 あいつの気の小ささは異常でしたよ。そういえば、この前にも、ただ風邪なのに、心臓がおかしい、なんて騒いでかけこんで来ましてね。いくら言ってもビクビクしているから、おまえの身体は鉄で出来てるって思い込ませたんですよ。いや、ちょっとした催眠療法みたいな感じですよ。いやー、初めてやったんですけどね。精神科の見ようみまねで。”おまえの心臓は鉄の心臓だ。今はちょっとネジがゆるんでいるだけだ。だから調子が悪いだけだよ。”ってね。あいつも気がすんだみたいで、薬持たせて帰らせましたけど。あそこまで悩んでいたとはねえ…。今、思えば、あれが…でもあいつ、何飲んだんですかね…?」

  4. 四月十一日付けT紙 朝刊
 『ネジ飲み込み自殺!?』
 昨日、午後五時十分ごろ、多摩川の土手で、世田谷区在住のYさんが、その場に落ちていたネジを飲み込み、死亡した。
 死因は、気管に異物が詰まったことによる窒息死。
 警察では、心臓が弱かったことに対しての悩みによる自殺とみている。

  ということのネジ。(といっても、その飲み込まれたネジがどうして多摩川の土手に落ちていたかは謎。)

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