共同研究費願書

■研究代表者:高橋士郎(情報デザイン学科 教授)

■研究課題 :情報芸術の研究 (新規)2009年度単年計画

■キーワード:情報芸術 学外発表活動 体験コミュニケーション

■交付要望研究費:300万円

【謝  金】日本語ー英語翻訳:50万円
【その他】印刷製本代 250万円

■研究組織:

高橋士郎(本学・教授)研究統括、およびキネチックアート
森脇裕之(本学・准教授)研究進行、およびライトアート
カスパー・シュワーベ(倉敷芸術科学大学芸術学部デザイン学科教授)ジオメトリックアート
石黒敦彦(武蔵野美術大学芸術文化学科講師​)展示会実施、および児童教育
久世祥三(東北芸術工科大学講師)インターラクティブアート
莇貴彦(メディア・アーティスト)インスタレーション

■研究目的

現代の情報化社会において、芸術の表現技法はとどめなく拡大し、通常の人間感覚では対応しえない高度な情報技術が遍在し、ブラックボックス化している。
秋葉原の無差別殺人事件などの不可解でオカルト的な犯罪が問題視されるのも、仮想と現実の間に大きな断絶を感じるからであろう。
本研究は、現代の高度な表現媒体と、野生の人間感覚のギャップに注目し、「情報芸術」を正しく豊なものに発展させようとするものである。

(1)学術的背景
情報デザイン学科「情報芸術コース」は開設以来10年間にわたって、「情報芸術」の創作・教育を行ってきた。その創作研究の成果は学外の一般社会で発表することとしてきた。その展示会記録は次のとおりである。

1998.07 「ムンダネウム展」多摩美術大学
2001.01 「ゴトゴトピカピカ展」TEPIA特設会場
2001.08 「モリワキットエキスポ2001」相模原市民ギャラリー
2003.07 「電動芸術展」新宿PCAギャラリー
2003.12 「TECH展」橋本駅前 杜のホール
2004.05 「エロメカ大作戦」青山スパイラルホール
2004.12 「TECH展:アートドロップを味わおう」三鷹市芸術文化センター
2005.12 「TECH展:アートダンジョン 知覚を探検する」三鷹市芸術文化センター
2006.07 「ミックスラボ:感性を開発する」池袋Orange Gallery
2006.12 「TECH展:未確認芸術」三鷹市芸術文化センター
2007.12 「TECH展:ナニコレ2007」三鷹市芸術文化センター
2008.12 「TECH展」目黒美術館

2001.04 「Insight Vision」多摩美術大学
2003.03 「2002年卒業研究制作展:ZERO/ONE」東京都写真美術館
2003.03 「2003年卒業研究制作展:想像から創造へ」横浜赤レンガ倉庫
2004.03 「2004年卒業研究制作展」横浜赤レンガ倉庫
2005.03 「2005年卒業研究制作展:ART × DESIGN」横浜赤レンガ倉庫
2006.03 「2006年卒業研究制作展:デザインする情報芸術」横浜赤レンガ倉庫
2007.03 「2007年卒業研究制作展:No Map」BankArt Studio NYK
2007.03 「AUTAMATICA」BankArt 1929 & BankArt Studio NYK
2007.07 「Insight Vision 2」多摩美術大学
2007.11 「インスタレーション展」横浜ZAIM
2008.03 「諸_芸術展」横浜ZAIM
2008.03 「2008年卒業研究制作展:clearing」横浜赤レンガ倉庫

(2)研究内容
本研究は、10年間におよぶ創作研究の実績を、再検討し体系化し、さらに、次世代の情報芸術の教育目標を考察する。
特に問題とする点は、情報芸術による子供達への影響である。子供達にとって、わくわくする心のうごめきは、人間や物にたいする確かな愛着の始まりとなり、触覚的・視覚的・身体運動的な経験からくる驚きと喜びは、生きる興味に転換していく。
現代の先端的な情報技術によるバーチャル・コミュニケーションの時代において、豊かで健全なコミュニケーションが成立するためには、受け手と送り手のリアルな現実体験による共通感覚が不可欠でしょう。
本研究は、感覚的な体感に連鎖して始まる、人間的な思索を喚起し、豊かなコミュニケーションをどのように実践すべきかを探ります。

(3)期待される成果
「情報芸術教育」の成果を出版し、世に問うことによって、情報芸術の創作研究の歴史的意義を明らかにする。
情報デザイン学科の開設10周年を機会に、「情報芸術コース」の展覧会活動の記録を包括的にまとめ、卒業生および志願生に提供することは、大学教育の社会的使命でもあろう。

■研究計画・方法

[ドキュメントの研究・編纂と展示発表]
「情報芸術コース・Aラボ」が10年間に展開してきた学外展覧会、例年2・3年生が自主開催してきた「Tech」展のドキュメントを編纂し、「体験コミュニケーション2009」を開催して展示する。
客観的な評価を確立するために、武蔵野美術大学芸術文化学科、東北芸術工科大学など、他大学の研究者の共同研究参加を求める。

[展覧会の構成と発表]
「体験コミュニケーション2009」において、ドキュメントの資料展示とともに、過去、在学生が文化庁メディア芸術祭などで受賞した作品を継年的に展示し、さらに現在の学生・院生による展示を併設する。
ここでも、より広く情報芸術教育の現在を表現するために、東京芸術大学、倉敷芸術科学大学、武蔵野美術大学、東北芸術工科大学などの参加を得る。

具体的な実施計画
2009年4月 過去の展覧会の記録、写真、映像の調査・収集。共同研究者による企画会議。共同研究者によるドキュメント展示制作。
2009年5月 「体験コミュニケーション2009」のカタログのデザイン、編集。出品作品選定・研究活動。
2009年6月 過去の展覧会の記録、作品、映像の調査・収集。カタログの編集作業。
2009年7月 展覧会の設営準備。
2009年8月 展覧会の開催・運営。カタログの出版・発表。

■研究の特色および独創的な点

情報芸術コースALabでは、発足当初から「学外展示活動」を体験型アート作品制作の重要な1過程と見なし、授業と密接にリンクした形で、学外の文化施設、ミュージアムとの連携を行ってきた。そのために、各年度とも映像資料は著しく充実している。これらを編集して10年間の学外展示活動のドキュメントを展示発表することは、情報デザイン学科の歴史の貴重なドキュメントとなる。さらに、学外展示の発展系として2008年以来継続している「体験コミュニケーション」展(逓信総合博物館との共催予定)の企画立案、展示プロセスのドキュメントを加えることで、我が国における情報芸術教育の発展の可能性を提示する。

■今回の研究計画の準備状況

(1)研究環境 前述の「研究の特色」にあるように、すでに10年間の映像資料は著しく充実している。すでに、2008年度からこれらの資料の整理、取捨選択、編集に着手している。2009年度は、「体験コミュニケーション2009」のための過去の学生作品の選抜、共同研究によるドキュメント展示の編纂、他大学との連携による展覧会運営を行う。
(2)連絡調整 共同研究者と、常時調整を行っている。
また、体験コミュニケーション展の共催予定者・逓信総合博物館とも緊密な連絡を継続している。

■研究経費の必要性

現代のデジタル情報技術は、相互方向性、媒体互換性、即時性、世界規模、動画配信ネットなどを可能とし、豊たかで大量の情報を簡単に伝達できるようになった。しかしながら、それらのデジタル媒体は、著作権の確保に関しては全く無力である。著作権確保と発表既得権を担保するには、アナログの印刷媒体が必要不可欠である。
多摩美術大学の在校生、卒業生、教員の創作研究を出版することは極めて妥当であり必要である。

■研究成果の発表方法

「体験コミュニケーション2009」(共催予定者・逓信総合博物館)における、学外展覧会の実施。
成果物は、「体験コミュニケーション ~多摩美術大学情報芸術コースALab 学外展示活動10年の軌跡~」(仮題)として、カタログ形式の冊子として発表される。これは全国の美術大学、美術系学部・学科、大学および公立図書館、美術館など・計200箇所に配布される。また、編纂の基本計画などについては、紀要において「報告」を行う予定である。

■研究業績

「情報芸術コース」授業での研究業績は、学術的背景の項に記載してあります。

高橋士郎の研究業績
展示会の企画実施 1969「国際サイテックアート展」ソニー企業株式会社
展示会の企画実施 1977-1984 「電気通信科学館企画展」財団法人電気通信科学館
展示会の企画実施 1973-1976「国際コンピュータアート展」財団法人日本情報開発協会
海外発表 1970ニューヨーク、パリ「ソニーショールーム」
著書 1985「空気膜造形」多摩美術大学研究紀要
著書 1987「キネチックアート」多摩美術大学研究紀要

森脇裕之の研究業績
展示会の企画実施 2003-2008「TECK展」情報デザイン学科Aラボ
海外発表 2005クンストハウスグラーツ、ビーゴ美術館「CHIKAKU」展

石黒敦彦の研究業績
展示会の企画実施 1991-2008「メビウスの卵展」来るべき芸術のためのワークショップ
著書 1999「体験型おもしろミュージアム」フレーベル館
著書 2000「メビウスの卵BOOXシリーズ」エクスプランテ

カスパー・シュワーベ
展示会の企画実施 1984「フェノメナ展」スイスチューリッヒ
著書 2006「ジオメトリック・アート」神戸芸術工科大学