2011「メディア藝術特論」

[momoko kawakami] [merry]

 

 

 

 

独特のタッチでユーモラスに描かれる牛、犬、鳥などをメインモチーフに、装飾的なパターンのように画面を埋め尽くしていくカラフルな色彩によるペインティング作品で、愛らしくもどこかシュールな世界観を描き出すアーティスト川上桃子。可愛らしさと不思議さを持ち併せたそれらの作品は、ギャラリーでの展示のみならず、毎月発表されるWeb上のプロジェクトであり、新ユニット名でもある MERRY の活動などにより、徐々に浸透し始めている。CDジャケット、Webや雑誌へのアートワーク提供など、様々なフィールドで精力的に活動を続ける彼女を取材した。

Text:原田優輝

絵を描き始めるようになったきっかけを教えてください。

たぶん3歳くらいから描いていました。でも、当時は特に専門的に何かをやっていたというわけでもなく、文字を書くよりは絵を描いている方が楽しいという程度でした。手を動かしていることが好きで、その時々で気になったものや、そこから連想したイメージなどを落書きのように描いていましたね。

専門的な絵の勉強をしていた時期はあったのですか?

大学受験の時期に、代ゼミの造型学校に通い始めたのですが、そこの校長にスゴく褒められて、初めて描いた油絵が予備校のパンフレットになったりしたんです(笑)。その流れでいつのまにか油絵科に行くようになり、そのまま自然と美大へ進みました。今振り返ってみると、小さい頃から画家になりたいとずっと思っていたわけではないのですが、こっちの道に進むしかなかったような気もします。当時から、絵を描き始めると平気で6時間とか過ぎていましたからね(笑)。その頃は木炭を使って描くことが多かったので、鼻の中を真っ黒にしながら(笑)。

 

今年に入り、これまでのMOMOKO KAWAKAMI名義から、MERRYという新たなユニットとして活動されるようになったようですが、その経緯を教えてください。

アートユニットと言うと、アーティスト同士のコラボレーションというのがほとんどだと思うのですが、MERRYの場合はそれとは違い、アーティストである私momokoとマネージャー兼プロデューサーのmidoによるユニットなんです。アーティストとマネージャーがアートユニットという関係で活動をしていくというのは、これまでになかったタイプの形態かもしれません(笑)。

なぜこのようなカタチで活動をしていこうと思ったのですか?

翠川とは小学生の時からの仲で、ずっと友達としてやりとりを続けてきたんです。そのなかでずっと私の作品や活動を見てきてくれていて、彼女の方から手伝ってくれるということを言ってくれたんです。私自身、まったくもって事務的な作業が苦手なのですが、MERRYをスタートさせる前はすべてそれらをひとりでやっていたんです。2人でやるようになってからは、そういう苦手な部分を補ってもらうことで、制作に時間がかけられるようにもなりましたし、気持ち的にもスゴく楽になりました。私にとって絵を描くことは生活の一部で、あまり仕事とは思いたくないのですが、どうしてもひとりでやっているとノルマを課さない限り、全然描かなくなることもあるし、それによって具合が悪くなってしまうこともある。でも、信頼できる彼女と一緒にやっていくことで、自分のなかで整理がついたり、絵を描く環境が自然に作れるようになりました。

MERRYのWebサイトでは、定期的に新作を発表されているようですね。

月一で作品を発表しています。以前から、同世代の人達にもっと気軽にアートを取り入れてもらいたいという気持ちがあり、本というカタチで作品をまとめたいと思っていたのですが、このプロジェクトも、最終的に一冊の本にまとめるという前提で毎月作品を発表していこうというところから始まっているんです。でも、ただ単に画集にするよりも、より多くの人に見てもらうためにも言葉があった方が入りやすいんじゃないかというのがあって、製作中の色々な想いやテーマなどを代弁してくれるような散文を翠川が書き、それと絵を一緒に発表するようなカタチにしています。

Merry Website

そもそもMERRYというユニット名は何に由来しているのですか?

小学生の頃、自分が描いたキャラクターの名前を、翠川に付けてもらったりしていたのですが、ある時、当時よく描いていたインコにMERRYと命名してくれたんです。MERRYという言葉には、「ほろ酔い加減の」とか「陽気な」という意味があるのですが、どこかシュールで、横目で笑っているようなMERRYが飛んできた時に、いつでも心のドアを開けられるような自分たちでいたい、というのがMERRYのコンセプトになっています。アイコンを立てることで、MERRYが代弁してくれることもあって、「私たちにはMERRYが必要」というのが合言葉なんです(笑)。

まさにMERRYもそうだと思うのですが、川上さんの作品には動物をモチーフにしたものが多いですよね。

そうですね。でも実は、無類の動物好きというわけでもないんです。だから、どうしてかはよく分からないところもあるのですが、テレビや動物園などで見て気になった動物を描くことは多いですね。ふとした瞬間に見せる人間のような表情を描いたり、ちょっと変わったアングルで捉えることが好きなんです。架空のものにはそんなに興味はないのですが、ちょっと普通じゃない感じが好きで、絶滅した鳥の図鑑なんかもよく見ています(笑)。逆に、普通にカワイイ動物の絵を描こうとすると全然だめなんです。前に無理してカワイイ子犬を描こうとしたんですが、ひどかったですね(笑)。

 

今後は、MERRYとMOMOKO KAWAKAMIの両名義で活動していくのですか?

自分のなかでは両者に違いはありません。常に新しいことをやっていきたいと思っているのですが、MERRYを始めたのも新しいチャレンジなんです。並行して両者があるという感じではなく、MERRYもMOMOKO KAWAKAMIも同じ場所にあるという感じです。そもそも器用なタイプではないので、使い分けることもできないですしね(笑)。

MERRYを始めるようになって、作品への取り組み方にも変化がありますか?

そうですね。MERRYの作品では、絵の中に明確なテーマを入れるようにしているんです。だから、今の自分たちや周りの人たちに必要だと思うキーワードなどをテーマにして、そこからイメージを膨らませて描くようになりました。以前は、例えば「ニワトリが描きたい」とか、「牛が描きたい」ということだけで作品を作っていたところがあったのですが、MERRYでは、そうしたテーマをひとつの作品の中で完結させるような作り方をしています。だから、以前にはほとんど描くことがなかった人物なんかもテーマによっては描くようになりましたね。

そのように毎回コンセプトを設定して描くようになったのは最近のことなのですか?

そうかもしれないですね。美大では油絵科にいたのですが、ひとりだけデザイン科の学生が描くような作品ばかりを描いていたんです。あえてそういうコンセプトでやっていたというわけではなく、ただ単に自分が描きたいモチーフを使いたい色で描いていました。でも、色々な作家さんやアートの世界で活躍している人たちの話を聞く機会が増えるようになって、ただ描きたいものを好きなように描いているだけでは伝わらないということがわかってきたんです。アーティストの松山智一さんに、「なぜ青を使うのか?」「なんでここに鳥がいるのか?」というようなことをちゃんと答えられるようにした方が良いというアドバイスを受けたりして、徐々に色々考えるようになっていきました。でも、しっかりとコンセプトを考えるようになってからは、描く前の苦しみが増しました(笑)。

 

それまでは絵を描くことは苦しい作業ではなかったのですか?

いや、やっぱり100%楽しいものではなかったですね。でも、それを乗り越えて達成できた時の爽快感が忘れられないんですよね。それに、作品を見てくれた人が、自分では考えていなかったような感想を言ってくれたり、自分の絵を好きだと言ってくれたりすることが、描いていた時の苦しみに勝るんですよね。一言で「絵を描いていて楽しい」とは言えないんだけど、そこで得られる充実感が大きいから続けている部分もありますね。そうやって続けていると、実際に同じような気持ちで描いている人のこともわかりますし、苦しんで描くことも無駄なことではないなと思っています。

現在は作品作りとクライアントワークはどのような割合でやっているのですか?

分量的には半々くらいです。クライアントワークの場合は、自分がどうしたいかということよりも、相手の考えになるべく沿うように心がけています。そこに葛藤がまったくないわけではないのですが、やっぱりお互いが納得して進められた方が良いですし、葛藤している時間があるなら、気持ち良くクライアントワークをやった後に自分の描きたい作品を作るという方がいいと思っています。幸いなことに、オーダーしてくれるクライアントさんも、私の作風から大きく変わるものは求めていないことがほとんどですしね。クライアントワークを通して、私のことを知ってもらう機会ができるのはうれしいことですし、自分の持っているものやMERRYが伝えたいことをより多くの人に知ってもらいたいという想いは、自分の作品作りと変わらないですね。

Artwork for MANMARU

作品を通して、どのようなコミュニケーションを取りたいと考えていますか?

この前、ある人に話した時には「意味が分からない」と非難されたのですが(笑)、自分の作品を通して、「ソウルメイト」的な人に会いたいと思っています。自分がやっていることや考えていることというのは、100人中100に伝わることではないと思うんです。でも、分かってくれる人にはより深く伝わるに違いないと信じてやっているところがあります。100人が私の絵を好きだと言っていたということを伝え聞くよりも、たとえその中の数人だったとしても、強く共感してくれて、個人的に連絡をもらえたりする方がうれしいんです。そういう人たちと出会うためにも、まずはより多くの人たちに届けたいと思っています。

最後に、今後の予定があれば教えてください。

11月に上海とシンガポール、タイ、東京と巡回する「 art with sound 」というエキジビションに参加します。また、この冬には渋谷の RESPEKT で個展も開催する予定です。

川上桃子氏がアトリエとしても使っている artless のオフィス。

DICTIONARY

川上桃子
MOMOKO KAWAKAMI
Illustrator, Painter, Artist
1981年東京生まれ東京在住。アーティスト、ペインター。女子美術大学絵画科卒業。現在は主にアートユニット MERRY として活動し、エキジビションやウェブサイトなどで作品を発表中。また、クライアントワークとして、ウェブサイトのアートワーク、出版物でのイラスト、ポートレートなども手がけている。
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MERRY
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