a gigantic cage of glass  Shiro TakahashiLocus Solus → Chapter 4

第4章は、死者の生前の行為を再現して、遺族の悲しみを癒すガラス張りの死体劇場である。遺族が持ち込む最愛の八体の遺体は、それぞれの人生のクライマックスに脳細胞シナプスの結合ネットの形で物質化された記憶データが、蘇生液と金属触媒の電気作用で活性化されて、死者の筋肉運動を再演する。ひばり号4才


凝固液 レジュレクティーヌ
起電剤 エリトリトール
触媒金 ヴィタリウム

絵画や彫像などの表象で記録されてきた出来事のクライマックスは、映画の発明以降に、動く映像によって記憶されるようになる。
「ガラスの檻」が当時発明されたばかりの映画撮影所をヒントとしているならば、8つの死体が演ずる死体劇は、ルーセルが制作したかった映画のプロットといえる。実現していれば、マジックとしての映画1902年メリエスの「月世界旅行」から、心理映画1920年ヴィーネの「カリガリ博士」に発展していく映画創作史を埋める作品となったであろう。

5-1. 詩人ジェラールの監禁 Gerard, poet (依頼者 his widow)
盗賊に捕われた詩人ジレットが、獄中の塵埃を利用して息子の命を救い、獄中での執筆創作を続けるシーンの再現を、未亡人が息子のために依頼する。



5-2. 金婚式のマオ夫婦 Meriadec Le Mao (依頼者 Rozik Le Mao, his widow )
ブルターニュに伝わる、聖なる万力の小道具を使用して行われた、幸福な金婚式の再現を、マオ未亡人が依頼する。

 Greece Headstone


5-3. 俳優ロランの白紙委任状 Lauze, actor (依頼者 Antonine, his daughter)
地球磁力の影響で頭痛を起こす貴族ロランの財産詐欺受難劇を、俳優のロレスが演ずる場面



狂言「Roland de Mendebourg」
うなじに埋め込まれた磁気針の彫物
地球磁気と生物 磁気の美術館


5-4. 幼児セロスの暗唱 Scellos, 7 year-old(依頼者 his mother)
幼児セロスが覚えたての詩を暗唱する姿を再現したいと、その子の母が依頼する。


"Virelai cousu"
ピエール・ド・ロンサールPierre de Ronsard


5-5. 彫刻家ジェルジュクの創作法 Jerjeck, sculptor(依頼者 Jacques Polge, his ssiduous pupil)
彫刻家ジェルジュクが、発明した独創的なポジ・ネガ造形法で、得意げに作品を制作する場面。



Antoine Watteau"Gilles"
消去画法 ポジ画ネガ像 
夜の鑞プリディアナ・ウイドウア


5-6. 作家ルカルヴェの放射線治療 Le Calvez, writer(依頼者 himself and Doctor Sirhugues)
作家ルカルヴェが鉄檻の中で、放射線照射法による胃癌治療を受る場面を、生前のルカルヴェとその主治医が依頼する。


被爆線量計a)リュテスの古地図 Lutèce
被爆線量計b)ヌーリ漫画Adolphe Nourrit
[d'Arsonval's great solenoid, 1893]


5-7. 上院議員夫人の血 Ethelfleda Exley, lady (依頼者 Load Alban Exley, her husband)
緋色のトラウマをかかえた上院議員夫人が赤色の反射光に脅える場面を、夫の上院議員が依頼する。



5-8. 謎の自殺者コルティエ青年 Francois-Cjharles Cortier, a mysterious suicide brought
(依頼者 household servant, Thierry Foucqueteau and Pascaline Foucqueteau)
文筆家ジュールが引き起こした冤罪事件が原因で自殺したコルティエ青年の最後の場面を再現し、事件の真実を解く。



ルーン文字 Runic alphabet

 

この死者の劇場ともいうべき「ガラスの檻」は、自然の採光を利用した初期のガラス張りの映画撮影スタジオを思わせる。
ダゲールと同様に肖像画家であったアントワーヌ・リュミエールの二人の息子によって興行されたシネマトグラフ『リュミエール』1894年の成功は映画産業を興し、心理的なドイツ映画に発達した。

死体ロボット達は、その出力機構が働くだけで、フィードバックに必要な入力センサーと論理回路が機能しないために、カントレルの助手達は死体ロボットと外部環境を同期させるために舞台裏で大活躍する。鉄腕アトムのような自律ロボット開発をめざしながら、フレーム問題を克服できなかった現代のロボット開発に似ている。
メアリー・シェリーの小説1918年『フランケンシュタイン:すなわち現代のプロメシュース』に登場する、名前さえも付けて貰えなかった被創造体の場合は、死体の部品を寄せ集めて構成された人体が、誕生後の自発的な学習によって人間らしい思想を獲得していき、創造主である医学生ヴィクター・フランケンシュタインを伴って自滅していく物語である。ルーセルの小説には、このような一神教徒に特有なフランケンシュタイン・コンプレックスはない。
Paris Morgue

[1825 Passage du Grand Cerf]

屍骸の腐敗を防止するための強力な冷房装置のアイデアは、1906年にウィリス・キャリアによって発明され、ニューヨークで普及した「冷房空調装置」がヒントとなったのであろう。[google/patents] 808897

1835 Wax Figure, MadameTussaud in London's Baker Street
1899 Psychoanalysis, "Die Traumdeutung" Sigmund Freud
Trauma(psychological trauma, traumatic experience )
1902 Cnema,"Le Voyage dans la Lune" George Méliès


[RussianMemory]