■メディア美術学科構想(040109ヴァージョン)
▼学科名:メディア美術学科
▼学科英文表記:department of art and media
▼専任教員:港、原田(大)、三上、森脇、高橋(史)、椹木、ヲノ、高橋(周)、久保田 + 新任(3名程度)
▼学生数:120名/年
▼ 基本理念:
美術は現世人類が誕生すると同時に開始された、もっとも古くかつ普遍的な営みである。わたしたちは、先史洞窟で踊り、歌い、話し、描いた人々とほとんど変わらない脳と身体を備えているが、その一方で石器時代とはおよそかけ離れた知識と技術を手にして、今日の社会を生きている。美術の与える感動は普遍的でも、そのかたちは時代と環境に大きく影響される。急激に情報化する社会において、わたしたちの脳と身体はどのような美術を生むことができるのか。そのためにはどのような知性と感性が必要とされるのか。情報技術を創造性に結びつけ、アートとサイエンスが混交する坩堝のなかで、若い才能とともに未来のかたちを探求すること。それがメディア美術のもくろみである。洞窟から工房へ、工房から都市そのものへと創造空間は変化してきたが、情報化はこの変化をさらに推し進めている。通信技術が切り拓いてきた時間と空間の拡張が、創造と教育の領域においてもめざましい速度で進んでいることは言うをまたない。メディア美術学科は、このような情報技術による諸経験の<拡張>を推し進めながら、知性と感性、アートとサイエンスの<統合>を目指すことを基本理念とする。
▼全体施設:
学科理念の実現のために必要される、いくつかの具体的な<装置>として、以下のものを提案する。学科の実践教育はこれらの施設の運用に主体的にかかわる。
・ 統合的創造センター
モノによる表現、情報による表現、身体による表現が有機的に結合しながら、創造と批評の交換が行われる場所。リアルスペースとヴァーチャルスペースが相互に貫入し、新たな知覚と経験を生み出す実験的な空間。
・ 24時間オープンの仮想大学
メディア美術が生み出す多様な作品や成果が社会にむけて発信されるとともに、地球規模でメディア美術の協同研究・発表を行えるようなインターネット空間上のユニヴァーシティ。デジタル放送・デジタル出版の機能をもつ。
・ ダイナミック・ライブラリー
大学の心臓が図書館であることは、今も昔も変わりはないが、情報社会における創造教育のためには、本やビデオが置いてあるだけの旧来型の図書館に代わる施設が不可欠である。教育と研究において必要なテキスト・映像・音響などの諸情報を、情報端末に読み込むことのできるメディアライブラリーは、生み出される成果物を次々に取り込みながら、それ自体が成長してゆく動的なシステムでなければならない。ライブラリーはストックされるデータと、それを読み込み活用するための独自な携帯型情報端末とで全体をなすと考える。
▼学科構成:
※12の専任教員による12のラボの集合体(学科発足時は学科内にコース等は設けない)。
 ラボ同士が有機的に結合したプロジェクトによる作品制作を基本とする。
デジタル・ムービー・ラボ(原田):
2006年の現行放送の終了を視野に入れ、VFXやCGIを軸にフルデジタルHDの映画制作を研究する。
メディア・アート・ラボ(三上):
メディア・アート、インスタレーション制作。
メディア芸術全般(インタラクティブ、アーキテクチャー、プログラミング、ネットワークなど)を軸にリサーチと作品制作研究を行う。
エレクトロニクス・アート・ラボ(森脇):
頭と手を使う「モノづくり」のスタジオ。
空間、時間的な表現を重要視した造形分野を研究対象とし、創造性と、実践力の育成をアートとテクノロジーの両面から追究する。
ビジュアル&オーディオ・コンポジション・ラボ(ヲノ):
映像・音楽(音響)・身体表現等、時間軸に沿って空間を制御する表現分野を研究対象とする。
主観的な発想を客観的な制作プランに育てあげ、構成・演出・発表といったプロセスを進めていくためのディレクション能力を重視。
ソフトウェア・アート・ラボ(久保田):
サウンドを軸にソフトウェア・アートとその周辺に関連した制作研究を行う。
具体的には、新たな芸術表現のための素材としてのデジタルデータ、プログラミング言語やネットワークに着目し、生成的かつ分散的な作品の可能性を追求する。
アルゴリズミックな思考をベースに、そこから広く素材と形式、構造と表現、音響と映像、視覚と聴覚、空間と時間、そして数(デジタル)と知覚の関係を探る。
イメージ&メモリー・クリエイション・ラボ(港):
イメージ創造が情報通信を核とする時代を前提とし、メディアを横断した映像の制作と情報社会における記憶のかたちを研究しながら、感性と知性の統合をめざす。
アート, ポップ&ランゲージ・ラボ(椹木)
「メディア美術」という枠組みを、作品(=アート)とその言語化(=ランゲージ)、さらにはその流通(=ポップ化)に至るまで三位一体のものとして捉える。履修者に最終的に求められるのは作品の制作とアート・ミュージアムでの発表、つまり「アーティストになること」である。その過程ではあらゆるジャンルについての知識、経験、技術が求められる。そのための糧として、この講座では特に20世紀の全アート・ファイルを活用する。現代美術はもちろん、映画、ファッション、小説、パフォーミングアーツといった領域の他に、これまでサブカルチャーという名称で括られていたロック、テクノ、SF、ミステリー、ホラー、マンガ、アニメ、ガレージキット、格闘技といった領域までを等価に捉え、それら複数のジャンルを横断的/ネットワ_ク的に修得=情報化した上で、21世紀のためのアートと、それをクリエイトする新しいアーティスト像を研究する。
▼カリキュラム概要(演習系):
・1〜2年:基礎演習
「総合基礎演習」
年度毎の学科共通テーマに基づく共同研究。「発表→議論→制作→発表」をひとつのサイクルと考え、これを
通年で数回行なう。学生は、1年次に興味を持ったキーワード(例としてゴダール、ウブド、座頭市、スペースエイジバチェラーパッドミュージック、「イレイザーヘッド」、デトロイト、アマンダリ、ラジオドラマノノといったふうに、固有名詞、作品名、地名、場所等何でもok)を徹底的に掘り下げ、ある形式(インスタレーション、映像作成、展覧会企画といったものからアンフォルムなものまで(anything goes!)に落し込み、適切なかたちで発表し、それを受けて全員でディスカッション。また必要に応じてアフィニティ・グループを作り、特別講義、取材、インタビュー、フィールドワーク、ツアー等随時行い、多方面へと知識を拡張していく。
「メディア・リテラシー」
コンピュータや映像+音響機器の基礎技術を修得。
「造形基礎(クラフト)」
造形に用いる各種素材加工技術、電気回路基礎を習得。
「メディア・プレゼンテーション」
企画書、プレゼンテーションボードの作成、プランニングの進め方を習得。
共同作業に必要なコミュニケーション技法を学ぶ。
「CGI基礎」
CGIの基礎学習。モデリング・アニメーション・プログラミング。
「デジタル映像基礎」
撮影基礎学習。ノンリニア編集基礎学習。
「写真表現基礎」
身体技法としての撮影、言語化の技法としての批評を通して、イメージと記憶の関係を学ぶ。
「プログラミング・メディア」
アルゴリズミックな思考とプログラミングの基礎を学ぶ。メディアとしてのソフトウェア、素材としてのプログラミング言語の意味と可能性を知る。
「ジェネラティヴ・コンポジション」
単純なルールから生み出されるジェネラティヴ(生成的)な表現の制作を通じて、形態や色彩といった空間造形と音響による時間造形の基礎を学ぶ。
「デスクトップ・フィールドワーク」
ウェブ上のさまざまなオンラインツールを活用して、さまざまな文化やコミュニティーのフィールドワークを行っていく方法を身につける。
「20世紀美術論」
ゲスト講師を交えた「アート&ランゲージ」の包括的スキャニング。・2〜3年:テーマ演習
「クラフト&エンジニアリング」
溶接加工などの高度な加工技術、機構、動力、メカニズムの専門知識、デバイス設計などの電子回路技術を学び、それらを自分の作品に応用できるだけの習熟をめざす。
「アート・プレゼンテーション」
アートという視点から見たプランニングのコンセプチュアルな面を、実際のかたちに落とし込む作業プロセスを学びながら、枠にとらわれない自由な創造力を表現として、かたちづくる計画を立案し、プレゼンテーションする。
「コミュニケーション&プレゼンテーション」
論理や文章の構築、企画立案、発表など、知的活動の基本技術を修得。
「アート&メディア・ヒストリー」
アート+テクノロジー+メディア史に関し、様々な教養を修得。
単なる歴史講義ではなく、たとえば「身体と動き」「光と色彩」「電気と増幅」など、多彩なキーワードに沿ってアート史を横断/縦断し読み直すような連続講義。
「コンポジション(映像×身体×音)」
映像やパフォーマンスにおける構成-演出、音楽における作曲-編曲など、各制作分野における時間軸上のコントロール技術を修得。
「メディア・エンジニアリング」
制作に必要な高等技術の修得。
映像で言えば撮影や編集、音で言えば録音やミキシングといった実用的な技術を身につける。
「アーカイヴ」
家族写真をはじめとした過去のイメージ資料体の調査、聞き取り、整理。アーカイヴの制作を通じて、社会的記憶の共有を実践する。
「データベース」
特定の地域あるいは共同体が共有しているモノやかたちのイメージ化。
「ドキュメンタリー」
美術大学におけるアートの枠を拡張しながら、社会とのかかわりを実体験する。
「リアルタイムAV」
プログラミングによる音響や映像のリアルタイム生成/操作法(DSP技術とインターフェイス・デザイン)を習得する。ネットワークを介したデータ・コミュニケーションによる分散的、並列的なコンポジションやパフォーマンスの基礎を学ぶ。
「ネットウェア」
インターネット・サーバーの構築を軸に、ネットワークを介したデータ・コミュニケーションやストリーミング技術を活用して、複数のメディアやプログラムを立体的に組み合わせながら、ダイナミックに作品を組み立てて行く手法を身に付ける。作品制作を通じてインターネット空間の文化や社会、美学や政治的な意味を考える。
「データ彫刻」
数字列を素材とした音響、映像、空間造形を行う。音響、映像、空間における1つの数字、すなわちクリック、ピクセル、ボクセルをアルゴリズミックに構成したり、厖大な数字群をパラメトリック/ストカスティックに制御することによる、時間的、流体的な造形表現を追求する。
「空間―身体・ワークショップ」
基礎演習:プログラミングの基本的な考え方、データの流れ、入出力やループに対する意識を深め、作品制作のヒントを解説・演習していく。シリアル通信、ビデオトラッキング、ネットワークなどを扱う。
インスタレーション・空間構成のための作図の基礎にもふれる。
技術をいかに作品に適用していくか、またテーマに対してどのように空間を構成していくかをエスキース形式で進めていく。
「空間―身体・フィールドワーク」
空間と身体との関係を科学、技術、社会、歴史的な側面から広範囲にリサーチすることで、メディア・アートの意味および可能性を検討し、作品のコンセプトを結実させていく場とする。具体的にはメディア横断的な実験や表現の紹介、科学・芸術分野での学外視察を行なうが、随意ディスカッションや各自のリサーチ・プレゼンを実施。最後に学内外での展覧会という形で作品もしくはリサーチ結果を発表する。
「メディア&インスタレーション総合演習」
光、動き、映像、サウンドなどのメディアテクノロジーを発想のベースにして、インスタレーション作品の制作を行う。
「展示設計プランニング演習」
実社会の空間を利用して、グループ展型式で役割を決めて企画立案から、広報、実施運営までの企画実現のためのプロセスを実践的に体験する
「アート・プランニング」
知識、実作、議論に加え、基礎演習で興味をもった対象が社会に流通して行く際のモデルを具体的に考察する。国際展やアートフェアの仕組みからギャラリスト、ディーラー、コレクターの実態把握。古典的なアートのビジネス・モデルから食玩のような新しい流通の形態まで、その時々にモデルケースを選択し、リサーチにうえ発表。情報を共有してディスカッションする。「総合制作演習」
各学期末には、個人/共同制作によって成果を発表する。
具体的には、単なるグループ展ではない合同インスタレーションやパフォーマンス公演など。作品制作能力のみならず、集団の意志決定やマネージメント能力の養成を目的とする。
・ 4年:卒業制作
※各ラボの概要を参照のこと
▼施設:
・大アトリエ/総合工房(メディア武道館)
一次加工されたさまざまな素材を組み立て、作品の総合的な制作と仕上げを行う空間。多目的な使用を前提にして、できるだけフラットな床面のシンプルな構造となっている。学生の制作時間を確保するために、カードキー式にするなど施設的な対応をして、制作に支障をきたさない自由空間の確保に努める。
・学科ギャラリー
小規模でも自主管理のできるもの
・個別演習室
―総合映像スタジオ
基本的な映像制作編集機器が揃った実習講義室。
編集のみならずパッケージングまでを行える総合的施設。
―ポストプロダクション・スタジオ
ハイエンドなフルHD対応ノンリニア編集システムを数セット備えた、予約制時間貸しのスタジオ。
―レンダリングサーバールーム
学生のCGのレンダリングサービスを行うマシンルーム。予約制時間貸し。
―ムービー用撮影スタジオ
ムービー用の撮影スタジオ(メディアセンターの撮影スタジオは写真用)。
ちょっとしたセットを建てることができる。
―メイン・レコーディングスタジオ
コントロールルーム=録音/トラックダウン/マスタリング/MAまで多目的に使用。
レイアウト及び配線の変更に対応できるよう、柔軟な設計をめざす。
スタジオ=収録以外に、演奏やパフォーマンスの実習時にはリハーサルスタジオとしても使えるように設計する。
―プロジェクト・レコーディングスタジオ
個人単位の録音/編集用の小型スタジオ。コントロールルーム機材はメイン・スタジオと同等。
―プレビュールーム
フルHD対応のプロジェクターと音響装置が備わったプレビュールーム。
ラッシュを見ながらプレゼンと討論のできる空間。
―インターフェイス・デバイス演習室
20台の作業机と映像と音響の入出力が実験できるスペース。
プログラミングのためのコンピュータ20台程度。
デバイス制作の工具一式。
―エレクトロニクス・デバイス演習室
電子回路技術、コンピュータ制御技術の研究開発設備を持つ専門演習室。
システム開発に必要な各種測定器、電源装置、などを備える開発ルーム。
インターフェースシステムの開発や、電子制御回路の開発を行う。
―ソフトウェア/ネットワーク実験室
プログラミングとネットワークに関するより専門的な制作研究が行える実験室。
スタンドアローンのプログラミングだけでなく、ネットワーク環境上での並列/分散プログラミングの実験が行えるようにする。
学科のウェブ/ファイルサーバー室を兼ねる(あるいは並置する)。
―素材加工工房
金属加工、木工加工、プラスチック加工の専用各種工作機械。
素材の一次加工のうち、基本的なものをこなすだけの設備を用意する。
ボール盤、旋盤、パネルソー、昇降盤、高速カッター、メタルソー、溶接施設等。
・情報端末
基礎教育に必要な情報(テキスト&イメージ&サウンド)をキャンパス内のどこにいても受信できるような、カスタマイズされた携情報端末
※ダイナミック・ライブラリーの項を参照のこと
・講義室
・資料室/アーカイヴ
・個人制作ブース
学生ひとりひとりが独自の活動拠点を大学に持てるだけの個人ブース確保。学生にとって他に気兼ねせず自分の世界に没頭できる空間を確保する。ただしクローズトではなくオープン構造で周囲からの刺激が常に絶えないことが重要。
・ストレージスペース
制作された作品のうち、必要と認められたものを保管するスペース
・大学院生室
大学院生用の制作研究スペース。学生の制作研究テーマに合わせて
・教員用個室
※なるべく素の状態でハコだけを作ってもらって、個人各々が使用法に応じて必要な什器や照明、機材等を指定する。
・非常勤/臨時講師室
・事務室
・会議室
※なるべく同一のフロア(上下よりも水平)に展開して欲しい。