漁村の荷車

  漁村で、漁港で働く手作りの車たち 

●漁村の荷車 

 漁村と一口に言っても獲れる魚の種類や、漁法によって、港のあり方や集落の構成が異なる。しかし水揚げされたものを船から運ぶという行為、船で使うものを運ぶという行為はどこにでもあり、このときに使われる道具として、人が引く、あるいは押す荷車が各地で見られる。このコーナーはそんな荷車たちのバリエーションを見るコレクションである。ここでもデザイナーによらない環境デザイン に出会うことができる。 ここに登場するフィールドは必ずしも村だけではない。漁港と呼ぶべきかもしれない。しかし港から離れて集落まで行き来する荷車もあり、活動範囲をあえて港に限定しないために漁村としておく。

●漁村の荷車の特性

これら漁村の荷車はほとんどが手作りで、日常的な工夫の積み重ねで改良されてきた。農機具であれば使わないときは納屋の中に納まって休むことが多いのに、漁村の荷車は道端に放置されることが多い。放置ではなく置き場所として決まっているのだとは思うが、通りすがりの人の目に触れることが多い。その姿はひと仕事終えて休んでいるように見えて愛らしい。荷車に出会うのは道端で猫を発見したときの感覚と近い。ひとつのモノではあるが、屋外に置 かれることで、漁村という環境を構成する一員となっている。

●価値

実はそれほど古いものは見られない。過酷な労働にさらされ、屋外に放置されて、寿命はおそらく農機具より短い。伝統的な民具と呼べるものではないし、博物館に入るようなモノではないが、日常生活の中でカタチが造りあげられてきたという意味ではまさに現代の民具 とは言えないだろうか。

●分類

何を運ぶか、どんな重さのものを運ぶか、どんな距離を移動するか、荷車のカタチを決定する要因は多数あり、どのような分類をするか迷ったが、おそらく地域差という視点で分類すると何かが見えてくるのではないかと思い、訪問地ごとにまとめてみる。

●調査方法

基本的に手を触れないで発見した場所でそのまま写真を撮る。個人の所有物だから勝手に触れないのは当然ではあるが、ちょっと移動すればもっとよいアングルで撮れそうな場合、もとにもどせばよいではないかという誘惑にかられるが、形状のバリエーションを調査するだけでなく、生息する状況の記録、つまりどう扱われているかの記録も重要と思われるので、倒れたものは倒れたまま、埋もれたものは埋もれたままの記録とする。