004 バッドギア考  チュニジア      /スース

 

 

  バーナード・ルドフスキーの名著 「建築家なしの建築」は、このホームページのきっかけでもあり、私が建築や環境に興味を持ったきっかけでもあった。この本の中の有名なページ、パキスタンの風受け装置、バッドギアは特に印象に残っているが、その現代版とも言える光景にチュニジアで出会ってしまった。

  スースは地中海に面した古都で、その旧市街メディナは世界遺産として保存されている。城壁から見渡すと、パラボラアンテナが林立しているのが目につく。当然のことながら同じ お椀が同じ方向を向いて並んでいて、まるでバッドギアのように見える。

  一定方向から吹く風を室内に採り入れて快適な生活を約束するバッドギア、一定方向からくる情報を採り入れて現代的な生活を約束する衛星放送のパラボラアンテナ、どちらも向きを間違えると役にたたないきわめて機能的な装置 であり、これを屋根に掲げることが町のランドスケープになってしまう。この地におけるパラボラはまさに現代のバッドギアである。これは古い町並みの景観を壊しているものではなく、これこそ生き続けてきた建築が今を生きる姿であって、現代のヴァナキュラー (土着)な景観ともいえる。現代は新しい情報というものが自然の風以上に重要な存在であることを見せている。

  ちなみにイスラム世界でもっとも重要な方角はメッカであるが、チュニジア最大のモスクであるケロアンのグランモスクはメッカの方角を間違えて建っている。

  本家のバッドギアがあったパキスタンのハイデラバード・シンドへも行ったことがあるが、もう風前のともし火状態で、「建築家なしの建築」にあった写真のような光景はもう見ることができない。