007 長生きする建築  マホ・ポルスカの木造教会    /ポーランド

 

 

ポーランド南部のクラコフ近郊からウクライナ西部にかけてカルパチア山脈の北側地域は、かつてガリツィア地方とよばれていた。この地域は古くから川を使った通商路があり、たくさんの異民族が侵入した地域であった。現在この地方はポーランド、ウクライナ、ルーマニア、スロヴァキア、ハンガリーにまたがり、ヨーロッパで最も木造教会が多く残されている地方で、その数は少なくとも200以上にのぼる。この地域に立派な木造教会が集中する理由は、中世以降列国の領土の中間にあり、宗教的にも不安定で、どの宗派も機会があれば布教活動だけでなく財政面でも積極的な援助を惜しまなかったからである。現在の宗派は西部がローマカトリック、東部がロシア正教とルーマニア正教、そこにきびしい反宗教改革に抵抗して残ったルーテル派の教会が散在するという構成になっている。その後社会主義時代に新しい教会が増え なかったために、木造教会を大事に使い続けた結果、 世界遺産に指定されるようなレベルの建築が多数残ることになった。

しかし現地を訪れてみると、真新しい板を張ったものが多いのに驚く。これは再建されているのではなく、通常のメインテナンスの範囲で、外壁、屋根を張り替えているためである。 つまり数百年前の建築と言っても外壁は20〜30年に一度そっくり替えているのである。「古い木造建築」というと日本の木造寺院建築のような時間を経たエイジングによる美しさを想像しがちだが、茅葺き屋根が葺きかえられるのと同じように、定期的に若返る工事が行われているのである。 風雨にさらされる木材が傷むのは当然で、人の手が入らなければ簡単に朽ち果ててしまう建築であるこれらの教会は、維持する人々が居て初めて成立する、長持ちではなく長生きする建築である。

 

上:デンブノ教会  

下:ザコパネ教会