したたかな小舟    フエ / ベトナム

  ベトナムのフエで早朝散歩をしていた時、川に浮かぶシャープで美しい小舟を見つけた。貝を採っているこの小舟、よく見ると銀色の金属でできている。地元の人の話だと、なんとこの材料はB52だという。ベトナム中部 の都市フエはかつての王朝があった古都だが、ベトナム戦争の激戦地でもあった。B52と言ったのは米軍機の総称としての表現で、他にも撃ち落とされた軍用機は多数あったことだとは思うが、敵の爆撃機や戦闘機を手漕ぎの船に再生してしまうのは驚きである。リベット留め部分の細工はオリジナルのままのように見えるので、最小限の切断だけでこの小さな、そして静かな舟へ改造してしまっている。上部のフレームは木製で、その断面はぎりぎりまで細く、構造的に無駄が無い。ジュラルミンの銀色と木部の色、何も飾らない素材そのもののシンプルな対比は惚れ惚れするほど美しく、風景の一部に溶け込んでいる。大量の爆弾を落とし、爆音とともに飛び回っていた重爆撃機が、おだやかなフォーン川で、今、貝を採る漁船として余生を送っている。なんという運命だろう。アメリカへの勝利の表現として日用品として酷使している、というほどの意味ではなく、おそらく「竹が採れるから竹で家を作る」というのと同じで、「飛行機の残骸が山にあるからそれを使う」だけのように見える。人間のたくましさ、したたかさを見る思いだ。