館長メッセージ
「発見の時空」へ
―新時代の大学ミュージアム―
多摩美術大学美術館 館長
鶴岡真弓
「多摩美術大学美術館」の歩みは、上野毛キャンパスの資料館設置(1964年)から半世紀余を数えます。
人類が歴史的な難局にある現在、芸術普及の最前線を担う大学美術館の1つとして、益々その役割が問われる新しい
時代に入りました。
コロナ禍によって人類はこれまでになく生命の尊さに向き合い共存する生き方を模索する中、生命を賭した表現の営み、「芸術」のミッションが、一層重要となる時代を迎えています。
同時にそこには「なぜ人類・人間はミュージアムを必要とするのか」という原点を問う機会がここに到来しているということです。
私たちは「ミュージアムという場」が、「見る場所」であるのみならず「発見の時空」にして「思考の場」であるということに改めて覚醒させられます。
「ミュージアム」の語源は、芸術家に霊感を与える古代ギリシャの女神たち「ミューズ」に由来し、大元は「探究の場・文書館・博物館・芸術学校」を指す言葉でした。が、更にそれ以上の意味が秘められていました。
「美術館・博物館museum」とはギリシャ語・英語からインドのサンスクリット語までの一大グループであるインド=ヨーロッパ語根の「men-」にルーツをもつ語で、「考えること」「心や思考のさまざまな状態に関係すること」の意味を孕んでいます。これと仲間の語である「心のmental」「心 mind」「注解comment」「マニア/熱狂mania」 などにも含まれている語根です。
すなわち「ミュージアム」とは、古今東西の優れた芸術作品や美的遺物を「目で見る」ことを契機として、五感をうごめかせ、人類/人間、宇宙/自然、生命、社会など、私たちが生きていく中でのあらゆるテーマについて、そして「生きとし生けるもの」の生死・再生を巡る、深い思考と生き方を発見し思考できる特別の時空であるということです。
なぜ人類は「美術館・博物館」を創り、そこに赴くことを大きな喜びとしてきたのかの重要な答えがここに潜んでいます。
多摩美術大学美術館は、地域と世界に開かれています。一般にはリモート体験も広がる現在ですが、それでは補えないリアルな刺激が美術館の現場には沸き立っています。
私も館長としてアート&デザインと、リベラルアーツ/人文学への扉へと、皆さまをご案内するための発信を「館長デスク」(https://twitter.com/Celt_Tsuruoka)からおこなってまいります。
新時代に入った多摩美術大学美術館への一層のご支援、ご鞭撻を、なにとぞ宜しくお願いいたします。


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