長沢芦雪の子犬―「気」の表現に見る模倣と独創―

加藤 みどり

作者によるコメント

江戸時代中期の画家・長沢芦雪は、近年では主に芦雪自身の独創的な作品について評価されている。その中で、師の「型」を受け継いでいることが明らかである子犬の画には、どのような価値が見出されるのか。芦雪の鳥獣画に見られる特徴を検証し、また同時代に活躍した画家や師・円山応挙の子犬画との様式の相違を比較して、芦雪の子犬作品の変容過程を検証し、さらに作品全体における子犬画題の位置付けを考察する。

担当教員によるコメント

江戸時代の奇想の絵師として知られる長沢芦雪の画業を見直す上で、生涯にわたって多数の作例を残した子犬の描写に特化して考察した点が興味深い。子犬は師の円山応挙も多く描いており、芦雪の作風形成の根を見極め直す拠り所にもなる。これまでの芦雪研究では、奇をてらった作風が強調されることが多かった。だが、表現の根幹を真摯に見直すには、芦雪が師から何を受け継ぎ、それがどのように変化したかについての綿密な論考も必要だ。本論は、その点で芦雪の評価に寄与する内容となっている。日本の犬の絵画史を、犬と人の関係という視点を交えながら整理し、大陸からの影響も加味しながら芦雪の描いた子犬の立ち位置を探った点も評価できる。さらなる精進を期待したい。

教授・小川 敦生