修復とは何か イタリアに見る修復の理論

佐々木 愛子

作者によるコメント

修復とは何か、という疑問を3章に分けて探る。第1章でまず「修復の歴史」を、芸術作品に対する介入と意識から調べる。第2章では、イタリアで20世紀に発達した修復の「理論」に関して、特にチェーザレ・ブランディの『修復の理論』を紹介し、芸術作品と修復の関わり方をまとめる。第3章では、システィーナ礼拝堂にあるミケランジェロの壁画の修復について、近年行われたものを中心に修復の理論が応用されたかどうかを考察する。

担当教員によるコメント

修復の問題は一筋縄ではいかない。簡単にいえば、古い作品を直すことに意味があるのか、いやそもそも直すとはどういうことか、さらにはオリジナルとは何かという深遠な問題にまで行きついてしまうのである。卒論のテーマとしては大きすぎるこの問題を、佐々木さんは修復という概念の歴史的な展開を調査することから始めて、現代における修復理論の泰斗であるチェーザレ・ブランディの言説を自身の言葉で例証することで見事にまとめている。ことに修復中止の運動が盛んに行われたシスティーナ礼拝堂天井画の修復活動についての論述には、自身、修復家の道を歩もうとしている若い研究者の、その修復に対する思いが率直に語られている。取材範囲も広く、まことに好感のもてる論文である。

教授・諸川 春樹