小川未明論―童話をつうじた子どもへの接近

高橋 万葉

作者によるコメント

近代日本児童文学の父と呼ばれる小川未明は生涯に1000を越える童話を残した。彼の理想主義的な作風は同時代および後進の童話作家に大きな影響を与えた一方で、晩年には古田足日をはじめとする新しい童話作家たちから強い批判を浴びた。この論文では、彼の思想や作品に触れることによって未明童話があたえた功罪を明らかにし、そのうえで彼が「子ども」という存在をどのようにとらえ、どのように描いていったのかを探る。そして現代までつうじる「童話」のありかたを解き明かしていく。

担当教員によるコメント

大正期から大戦後にわたり、日本の童話作家として重要な存在でありつづけた小川未明について、この論文は実に丁寧に論じている。「赤い蝋燭と人魚」などに見られる未明童話の特質が戦時をくぐり抜け、戦後社会とどのようにぶつかることになったか、その創作活動に加担しすぎることなく、冷静にその軌跡を辿っていく。そのために、ここに浮びあがってくるのは、日本近現代の童話史の陰影である。論を運ぶ文章のきめ細かさも高く評価された。

教授・平出 隆