影の光、光の影

赤松 裕子

担当教員によるコメント

幼少期から抱き続けている塔に対する憧憬を凝縮させるつもりでこの作品が生まれた。自分のなかにある塔(タワー)のイメージを模索しながら数点の制作を経て、透明な塔にたどり着いた。しかも塔の中心がくりぬかれて空虚であるのは、日本の寺院建築の芯柱の思想に啓発されたという。そのなかをまばゆい光がゆっくりと上下に移動して光の柱を形成している。灯台のように光を放つソリッドな塔の場合、塔は光装置を内蔵する筐体にすぎない。何層にも重なった透明板で形成される塔が光の柱を抱いたときには、塔の存在自体が現実の向こう側に屹立しているようになるのである。暗闇に浮かび上がる塔の中心に天までとどくような一本の道筋が見えたとき、かつて塔の前に立ちつくした幼い作者と同様に、畏敬の念を抱きながら見上げている遠い記憶の存在を感じる。

准教授・森脇 裕之