黙読の声, 読書体験を変える表現の考察

新島 龍彦

作者によるコメント

ある時、自分は文章を読みながら言葉を頭の中で音声化している事に気がつきました。男の登場人物は男の声で、語り部の声は文体や作者によって変化しています。黙読の声とはその頭の中に想起される声の事です。
この製作は、普段意識される事のない黙読の声と言う「読み方」を意識させる事で、「読む」という行為そのものに変化を与えたり、これまでとは異なる側面から文字とデザインの関係を考えていく事を主題とし、幾つかの作品を制作しました。

担当教員によるコメント

新島は、小説家の朗読に触発されて、声に出して読むことを考えてるうちに、黙読しているときにも「声」が聞こえていることに気がついた。違う書体で読んだら、聞こえる声は変わるのだろうか。文字に大小をつけたら?活字と手書きでは?さまざまな文字組みを用意して、いろんな人に読んでもらった。「声」は、たしかに聞こえたようだ。では、黙読の声に気づいたとき、読書体験はかわるのだろうか?新島は、連続して問いを続けながら制作を進めた。さまざまな試作を繰り返すうちに、いつのまにか「読むこと」のデザインにたどり着いていた。読むことのかたちは、長い一行で組まれた一編の小説として提示された。一年に及ぶ思考を閉じ込めた書物の完成だった。

教授・永原 康史