ロマネスク美術の眼差し

金森 祐芽

作者によるコメント

ロマネスク美術の誕生、中心、地方、そして末端へ。私を迎えいれる教会は今も荘厳で美しい、でもその隅には奇妙な生き物の彫刻たちが潜んでいる。一体どうしたら同じ石からこれほどの表現の違いが生まれるのだろうか。人々の信仰に対する真摯な姿勢、石工の遊びにとんだ手仕事。ロマネスク美術には、複雑に絡みあったものを解いてゆく面白さもあれば、解かないまま身ひとつで向きあうことができる喜びもある。

担当教員によるコメント

ロマネスク美術とは西洋中世のちょうど半ばにフランスを中心として広まった宗教美術である。その全体像を論じることは卒論では不可能であり、本論はそれを自身の言葉でとらえ直したものだといえる。第一章では初期キリスト時代からの美術史的流れが要領よくまとめられ、第二章では修道院を中心とする社会的背景、そしてロマネスク美術に特徴的な普遍性と地方性の問題が取り上げられている。第三章は金森さんが特に魅力を感じたという南イタリアのロマネスクの建築について論じられ、そのために実際に単身イタリアに赴き、実物を調査した成果が生かされている。全体として見ると研究論文ではないが、一時代の美術作品に魅了された美術愛好者の真摯な姿勢が貫かれていて大いに好感が持てる。

教授・諸川 春樹