「自責」, ―レヴィナス、存在の禍悪(mal d'être)を巡って―

木野 允寛

作者によるコメント

本稿はレヴィナスの初期の作品を頼りに〈ある(il y a)〉という事柄がもつ根源的な“悪性”(存在の禍悪)について、「自責」という軸をとって書かれたものである。そのような悪性から目を逸らさずに、しかし逃走を試みることによって何らかの「善さ」が見出しうるのではないか。そして「自責」とは同時に「未来への希望」であるのではないかと模索するものである。またレヴィナスの芸術論についてもモダニズムとの関係において論じている。

担当教員によるコメント

木野允寛さんの『「自責」―レヴィナス、存在の禍悪(mal d'être)を巡って―』は、「自責」の念の発生という事態を、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナスの思索のなかに探った力作である。まずは「自責」の念の発生を探るという主題にオリジナリティがある。さらに、レヴィナスの初期著作を懇切丁寧に読み進めながら、レヴィナス哲学の根幹に「自責」の念の発生という事態を位置づけることに成功している。レヴィナスの著作についても、邦訳と原文を比較対照しながら独自の読みを提示している。主題の選択においても、論考の進め方においても、卒業論文のレベルをはるかに超え出たものである。今後、この論考を土台として、哲学の研究者であるとともに文章の表現者をも目指してもらいたいと思う。

准教授・安藤 礼二