単の椅子の研究

岡田 雅王

作者によるコメント

単一要素を変形させる行為で生まれる形状に着目し、一枚の板材のみで完結する椅子をコンセプトに制作。切り出した部材をひとつひとつ組みあげて形成するのではなく、ただのひとつの部材に一貫して向き合うことで、まったく違った質のデザインが見出せるのではないかと考えた。多を組むのではなく、単を変えることで成り立つ手数の少ないシンプルな形状を重視し、かつ構造的な合理性を備えた意匠を追求している。

担当教員によるコメント

最終形の椅子を見た印象は、イッセイ・ミヤケの「1枚の布」と同じコンセプトになったなと言うことであった。勿論良い意味である。折り目を付けた1枚の布が3次元に立ち上がると見たことのない服が現れた、これは西洋のファッション界において衝撃的な事件であった。エキスパンドメタルという単一素材を、必要な機能に応じて吊り構造やアーチ構造又はシェル構造等を使い分けて完成させているという点ではこれも同様である。「単一素材で作る」このことをアイディア段階からぶれずにこだわり続け、エキスパンドメタルに行き着くまでに作り続けた模型の数々。素材を決めてから丹念に積み上げたディティールがこの椅子に優雅さと完成度の高さを与えている。空間に人が浮いているような錯覚を与えるのも作者の狙い通りか。

教授・富樫 克彦