ししゅうの本

吉田 絵梨子

作者によるコメント

可愛い妖精達が踊り、魔女が輝く夜を飛行する。きらきらした宝石の様に綺麗で、少し不気味な世界観を持つイギリスの詩人ウォルター・デ・ラ・メアの「詩集」を「刺繍」しました。夢の中にいるようなデ・ラ・メアの詩の繊細さを刺繍で表現し、読み手の創造力を掻き立てます。荒俣宏訳の日本語版も素晴らしく、原文と邦訳どちらも一緒に楽しめるようなページの工夫をしており、そのため両開きの本となっています。

担当教員によるコメント

手にズッシリと心地好く、エレガントな芳香を放つこの見事な作品は、「本っていいな」と改めて実感させてくれる。和文タテ組の右開きと英語原詩の左開きの一体本である。イラストレーションと和文詩の全頁に刺繍が施された袋綴じで、その間にOHPフィルムに英文詩が印刷され、頁を重ねるとイラスト+和文のフォルムにピタリと重なる繊細な設計がされている。懐かしい書体のA1明朝をはじめとするタイポグラフィの選択、刺繍糸の色相、表紙と外函の色違いの特殊紙などが見事にコントロールされ、これらのデザインエレメントの気持ち良い協奏が気品のある作品となっている。社会への旅立ちとなるこの作品は先々、本人の背筋をいつもピンと支えてくれるに違いない。素晴らしい作品の完成、おめでとう。

非常勤講師・小泉 弘