二〇〇〇枚の布のミュージアム

江波 蒼

作者によるコメント

私の叔母は、二〇〇〇枚以上の布を20年かけて織り上げた。その布を庭で展示、収蔵するためのプライベートミュージアムを設計した。12フィートのワンバイフォーに舟形の張りを持たせた構造体を合掌させたものを一単位とし、それをひとつひとつ立ち上げ、並べてゆくことで、一人でも建てることができ、コストを抑え、軽量かつスタッキングして運搬ができる小屋として設計した。舟形の構造体は外側に対しては水はけの良い尖頭アーチ状の外観を生み出し、内側に対しては天井から布を垂らした際の美しい曲線に沿った形状となる。また舟の内部はそのまま棚となっており、二〇〇〇枚の布を箱に入れて収蔵しておくために使用する。

担当教員によるコメント

ありふれた材料を使った単純な構造はその一部が棚になり、内側の曲線は布を飾ることで曲面として現れる。平面上で組立てたものを順番に立ち上げて行くことで、足場も使うことなく1人で持ち上げて組立てられるシステムである。卒業制作といえば本学科では下級生のお手伝いに支えられることが恒例になっているが、1人で作ることができるというテーマのため、実際に1人だけで作り上げた。デザインはその見え方をシンプルにするために逆に工程が複雑化するという例がよく見られるが、この作品は工程のシンプル化に取り組んでいる。少ない材料、少ない工具、高度な職人的技術を要求しない、という条件を自ら課すことで、緊張感あるデザインにつなげているところが高く評価できる。

教授・岸本 章