不気味な記憶

小林 舞

作者によるコメント

わたしの絵は心象的で、選ぶモチーフは、おそらく他者にとって美しくも、楽しくも、面白くもないものだ。そういうものが好きだからだ。明確に言うと、そういったものを魅力的に描いてみせる事が好きなのだ。不気味さ、恐ろしさが故に脳裏にこびりつく記憶。「楽しい人生」には必要ないはずの記憶。それは奥深くでその人間の人格と価値観に作用しているものだと思う。わたしの中にあるそういった記憶を、イラストと文章で編集した。

担当教員によるコメント

自身の成長に影響のあった記憶の数々を、赤裸々な文章と小林舞ならではの表現により、BO判12枚のグラフィック作品に仕立てた見事な大作だ。特筆すべきはこの強烈な魅力溢れるドローイング達が全て原画そのものであることだ。誤摩化しのきかない環境に身をおき、真正面から正々堂々と制作に挑んだ姿勢は凄い。回りの学生達は創造の段階で決まり事のようにデータを介在させる。無論そのことにより、新鮮な気付きがもたらされることもあるが、いまだ多くの場合、安易で怠惰を求める手段としての活用を感じてしまう。小林の仕事にはこの現状に対する強い疑問符が秘められているのだ。情感を揺さぶるクリエーションの普遍的原点を、過程、そして結果共にもたらした意義は素晴らしく大きい。

教授・澤田 泰廣