誘惑する透明性, −ジョルジュ・スーラの《グランド・ジャット馬の日曜日の午後》をめぐる解釈の多様性について

亀山 凌

作者によるコメント

《ラ・グランド・ジャット》の示す複雑さに対して、いかなる解釈が与えられるだろうか。本作をめぐるさまざまな解釈の対立の原因となっている画中の人物たちの性格の多様さと曖昧さは、点描そのものの複雑な性質との間に一種の類比(アナロジー)を持っている。また点描は、観者との相対的な関係の中から現象するものである。この二つの認識において《ラ・グランド・ジャット》に透明性と誘惑という二つの鍵概念を読み込む解釈が成立することを、本論文は示そうとする。

担当教員によるコメント

19世紀末のパリの余暇を主題とした、スーラの畢生の大作が今なお謎めいており、多様な解釈を誘ってやまないことはこの時代を研究する美術史学徒の周知の事実だ。本論文の特色は錯綜する解釈の森に先行研究を踏まえつつ独自の道を跡付けるのではなく、解釈Xとして「複雑さを複雑なままに捉える」ことをもくろんだ点にある。本論文を読みおえて霧の中に放置されている印象を持つのはそのためである。主として英語だが学術文献はよく読まれている。卒論ではきわめて稀なことだ。ジョナサン・クレーリーに代表される新しいタイプの研究にも目配りがきいている。しかし、筆者の「眼と精神」を通じたそれなりに生き生きしたスーラ像がどこにも出てこない。そこが不満である。

教授・本江邦夫

  • 作品名
    誘惑する透明性, −ジョルジュ・スーラの《グランド・ジャット馬の日曜日の午後》をめぐる解釈の多様性について
  • 作家名
    亀山 凌
  • 学科・専攻・コース