卒業制作優秀作品集2016
芸術学科

小林 紗由里

奈良原一高の『人間の土地』と『王国』に潜む自己表現

本論文では、日本の写真家である奈良原一高(1931-)の初期の代表作とされ、主観的な写真表現を指向したとされる2つの作品、『人間の土地』(1956)と『王国』(1958)の表現手法について検証し、彼が当時、どのように自己と戦後社会を捉えて写真表現を試みたのかを考察した。その結果、彼の持つ俯瞰的かつ複眼的な視点によって、多次元的な世界観を作品上に構築していくという、奈良原の表現の特異性が明らかになった。

担当教員によるコメント

本論文は奈良原一高の初期の作品を中心に、彼が1950年代の日本の状況を背景に、自己と戦後をどのように捉え、把握していったのか、また、それらを写真表現としてどのように表現し定着していったのかを論じていく。たとえば、初期の代表作である『人間と土地』を取り上げ、そこに表象されている軍艦島で生きる人々や桜島の溶岩地帯の不毛の土地で生活を続ける開拓民を発見し、「ルポルタージュ・エッセイ」として表出されるまでの眼差しと表現のあり方を探っていく。 本論文はまた、複雑で多様な現代の問題を意識することから出発し、奈良原の作品に対して執拗に問いかけを繰り返し、正面から鑑賞することで、写真におけるリアリズムと表現の問題を検証した結果生まれた論文といえる。さらに、自らの写真の制作体験を踏まえつつ研究を進めた結果なのだろう、現代作家と奈良原との比較に論が進んだことも好ましく、この論文が生きた研究となった要因であろう。

教授・海老塚耕一

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