叛骨の作家アントニ・タピエスの芸術思想とその背景

小山 望実

作者によるコメント

スペイン カタルーニャ地方に生まれた芸術家アントニ・タピエス(1923-2012)は版画から立体コラージュ、彫刻に至るまで実に多くの作品を世に送り出した。また、画業の傍ら旺盛な執筆活動を行った。本研究は、彼の最初の著作である『実践としての芸術』(1970)に記された前衛主義思想や叛骨精神が育まれた背景を、長年の芸術活動と、さらにタピエスと密接な関連をもつカタルーニャの風土とその受難の歴史から読み解いていく試みである。

担当教員によるコメント

卒論とはある意味で「青春の思い出」であってほしい。その分野の、皆が専門家になるわけではないからだ。卒論ほど主題と筆者が近づきうるものはない。何よりも大切なのは対象にたいする手放しの「愛」だ。それのみが直截だが陰影にとんだ言葉を紡ぎだす。その意味で本論文はまさに「私のタピエス」なのである。すべて翻訳とはいえ、文献を渉猟して20世紀スペインの稀代の芸術家タピエスの生涯、とりわけそのカタルーニャ的出自と、それに伴う苦難を描き抜き、この「叛骨の作家」の実像を浮かび上がらせる手腕は見事なものだ。2011年にバルセロナにタピエス美術館を訪ねた折の、タイヤでも作品なのかという戸惑いから書き起こす筆致はどこまでも無理がなく誠実である。過不足のない模範的な卒論である。

教授・本江邦夫