鏡背に広がる文様と象徴, ―「月夜木賊刈柄鏡」に見る物語性と和鏡の誕生―

古屋 こずえ

作者によるコメント

鏡について興味を抱くようになった契機は、平等院鳳凰堂で見た阿字池に映る鳳凰堂の姿であった。水面に反射して映る景色は、そこに無いはずの奥行きを感じ、異次元への道標にも感じた。弥生時代に中国から舶載され日本に伝わった鏡は、日本で様々な文様を施され次第に日本独自の文様表現を持った和鏡を形成していく。本論では、江戸時代前期に製作された『月夜木賊刈柄鏡』を中心とし、鏡背に描かれた文様と象徴、鏡の持つ神秘性について論じていく。

担当教員によるコメント

「鏡」の背面に「文様」や「絵図」をほどこす美術に注目し、中国・韓国から伝来の超越的で宇宙論的な円構図の抽象文様表現に対し、わが国の「和鏡」には「物語絵」が生まれたこと、その誕生のプロセスと成熟に至る歴史を、江戸期の名品を取り上げ深く考察した。能楽・世阿弥の謡曲に基づく「月夜木賊刈(とくさかり)柄鏡」(寛永期)に焦点を当て、行方知らずの息子を思い晩秋にひとり木賊を刈る老父を描き出した図像の解釈により、鏡の装飾が単なる飾りを越え、心の哀感までを描き出す心象芸術に至っていることを読み解いた。「鏡の呪術性」と、そこに「映し込まれるもの」を、文学と美術の交流を背景に捉えてよく見つめ、「鏡芸術」研究の将来的可能性までを大いに示す論文である。

教授・鶴岡 真弓

  • 作品名
    鏡背に広がる文様と象徴, ―「月夜木賊刈柄鏡」に見る物語性と和鏡の誕生―
  • 作家名
    古屋 こずえ
  • 学科・専攻・コース