果実とこころ

四谷 菜摘

作者によるコメント

太宰治の小説「皮膚とこころ」をモチーフに制作したコンセプトアート。主人公である新妻が皮膚炎を煩い、自身の皮膚が少しずつただれていくと同時に、自らの女性性に気付かされていく物語。小説内で使用される腫れていく皮膚の比喩として用いられる苺をモチーフに、彼女の秘めていた女としての自負を小説に使用された句読点を利用した。句読点は言葉と言葉の僅かな間であり空気だ。その小さな空気の集合が、物語を通じて漂う主人公の不安を表した。

担当教員によるコメント

一掌の短編小説の題材にして、文庫本のページから文章の読点だけを切り抜いて、隣のパネルに、イチゴの形状に並べて貼り込んだ。読点の形状をイチゴの種に見立てていることには深い意味はないという。ただ単純に似ているからだそうだ。小説は文字を編み込んだものだが、読点はお約束ごとになかで使用される文章の付属品にみられている。小説の題材とは離れて、本来は意味を持たないはずの読点がイメージを持って立ち上がってくる。それを対比的に見せている作品だ。おそらく作者はこれから世の中にあふれる事象について、ここで見せているような切れ味のいい手法で、その文脈にとらわれない独自のイメージを創出させる仕事を続けることになるのだろう。

准教授・森脇 裕之