行為の椅子

坂本 千彰

作者によるコメント

空間の中に二つの椅子があります。一つは三角形のスクリーンに覆われていて、もう一つの椅子の前にはカメラがセットしてあります。椅子に座るとカメラがその様子を記録し、椅子から立ち上がると記録した映像がスクリーンに投影され、自分の座る行為を三方向から見ることができます。この椅子の作品は、ジョセフ・コスースの「一つと三つの椅子(One and Three Chairs )」を参照し制作しています。コスースの表現した椅子の観念的な規定から、「椅子に座る行為」に焦点をあて、行為の記録と再生を行いました。この作品を通して椅子の象徴性や機能性の表現を試みました。

担当教員によるコメント

コンセプチュアルアートの名作として名高い、ジョセフ・コスースの「一つと三つの椅子」に材を得た作品である。コスースは一脚の椅子を実物と写真と辞書の定義であらわし、その概念をとらえようとした。坂本は、コスースの椅子には本来の用途である「座ること」が含まれていないことに気づき、「座る行為」の概念化を試みることにした。鑑賞者が椅子に座ると、前に設置されたピラミッド型の装置のなかに自分の疑似3次元の虚像があらわれる。そこで鑑賞者は席を立って、たった今座ったばかりのピラミッドの中の「椅子に座った自分」を観ることができる。最初は十分の一程度の模型で実験し、五分の一、三分の一とスケールを上げながら精度を高めていき、実物大の人間が投影できるサイズの装置ができあがった。

教授・永原 康史