忘れゆく人へ忘れゆかれるものへ

山本 彩果

作者によるコメント

認知症になり、自らの大切にしてきた愛しい品々との記憶を失ってゆく祖父という「人」と、忘れられ輝きを失っていく「物」達を見つめ、私はただそれらを守りたいと想う事しかできない。私の想いはどれだけ彼の記憶に寄り添おうとも、決して溶け合う事はできず、虚しくその周りに蔓延りながら、共に朽ちていく。それはまるで「砂糖漬け」のような甘く脆い守り。

担当教員によるコメント

山本は、三年次の終わりごろから痴呆症が進む祖父と住みはじめた。毎日料理してるのに食べたことも忘れるのが悔しいと、彼女は笑って話した。一方で、卒業制作に向けて「想い」や「記憶」を砂糖漬けにして保存するという作品の制作をはじめていた。「おじいちゃんの記憶」がその砂糖漬けの対象になるまでに時間はかからなかった。祖父が愛用した小さな工具や家族を写した昔のポジフィルム、それらが砂糖で固められていった。素材としての砂糖は白く美しく、そしてやはりどこか甘い香りがした。最後に作品が仕上がったときに黒く焦げた砂糖が混ざっていた。いとおしいものたちを忘れてしまう祖父に対して、自分のなかに憎しみのような気持ちが芽生えはじめていることに気づき、手が動かなくなって焦がしたのだという。甘いだけではない作品に仕上がった。

教授・永原 康史