皇居ラン

津賀 恵

担当教員によるコメント

日本の首都東京の中心に位置する皇居と、その周囲をジョギングする人々との関係を題材に制作された本作「皇居ラン」は、津賀が初めて本格的に挑んだ社会学的リサーチと、彫刻的立体造形が複合的に積層された意欲作である。彼女はこれまでも、社会に潜む矛盾や不文律な事柄に着眼し、可視化を試みる制作を行ってきたが、ダイエットや健康志向と言った私的欲望に執着する現代社会と、そこに隠遁される絶対的力の存在の双方が肉体化された本作は、私達が無意識の内に避けている、日常的後ろめたさや居心地の悪さを顕在化し、視る者を強く揺さぶる力を得ている。網膜的快感に頼る作品鑑賞眼からいえば、キッチュで不愉快だとも解釈される彼女の制作は、本来、現実を見据え新しい感覚を求めるアートの、その本質を思索し追究する果敢な行為である事は間違いない。

教授・笠原 恵実子