記憶のインセンス

黒田 舞

作者によるコメント

“記憶”を形あるものではなく“記憶のイノセンス”として残し、儚さを空間に落とし込むことで、記憶を喚起させる場を作る。これは愛おしい記憶に身を傾け形ないものに静かに心を寄せるための空間の提案である。

担当教員によるコメント

「香り」という見えない対象のための建築である。視覚障害者のための建築はよく聞くが、嗅覚に頼る対象に対して、視覚中心の建築に何ができるのか?図らずも、熱や空気や湿度といった環境工学の最先端のテーマと共鳴する、ゾクゾクするテーマだ。このテーマを建築に向けて開いたことは、後輩たちにも響くと思う。ただ残念なのは、嗅覚に対峙し自然体で答えを出す前に、建築する意思を歪んで封印してしまったことだ。歪んだ封印から漏れた建築は時に、本人が気が付かぬところでグロテスク化する。地中化と封印とはそもそも別物だった。学部では叶わなかったけれど、いつか建築にきちっと向き合えばこの封印は解けるはず。

教授・松澤 穣