いのちのひらがな

大野 沙季

作者によるコメント

世界の文字の中でも「ひらがな」は特別な文字のように思います。言葉は「言魂(ことだま)が宿る」と言われます。言魂とは、言葉に内在する霊力のこと。ひらがなには、不思議な力があります。力以上に、言葉自体が「いのち」であり、「たましい」なのです。ひらがなの有機的な形のそれは、まるで生き物であるかのように感じます。ひらがなを用いて、それぞれの「ひらがなのいのち」を表現しました。

担当教員によるコメント

大野沙季さんの卒業制作「いのちのひらがな」は、言葉と文字が織りなす形を探求した作品です。注意深く単語を選定し、それをあらわすひらがなに拡大・縮小・回転・オーバーラップ処理を施すことで、想像を超えた複雑な形態が生まれています。まるで生き物のように蠢いて見えるその形は、書くという動作に由来するひらがなの生々しさを浮き彫りにしています。言葉と文字が出会うことで生まれる、意味と形の世界がタイポグラフィであるとすれば、大野さんが追究したのは、意味と形が出会う瞬間に生じる相互作用だったのかもしれません。その相互作用を支える言葉のいのち=言霊と、文字のいのち=ひらがなに注目し、ひとつの作品として結実させた力量と試行を大いに評価したいと思います。

講師・佐賀 一郎