touch and feel

小野 愛佳

作者によるコメント

抱きしめる、声を聞く、温度を感じるなどすべて触るという動作は、デジタル化が進んでいく現代で失われつつある人と人のコミュニケーションであると考えます。デジタル化が進むことにより効率がよくなったり、便利になったりたくさんの利点がありますが、私は大切な人たちとはディスプレイ上のコミュニケーションではなく身体や声や存在を触れて感じてコミュニケーションをとっていきたいという思いから制作しました。

担当教員によるコメント

小野愛佳は、一貫して写真技法を使い、人間の非存在性やコミュニケーションレスの問題を扱ってきた。今回の卒業制作”touch and feel”は、追求しているテーマをさらに深化、純化させることに成功している。「声を聞く、人の湿度を感じる、人を触る、抱き寄せるという行為、人と人との究極のコミュニケーション」という作者のステートメントの通り、人の触感的記憶を刺激して、本能に潜んでいる欲動を気づかせる作品として結実させている。まず、A2サイズの11個の、指を噛む、肌と肌が触れ合う、肌をつかむなど、直接に人と触れ合う行為の連作は、忘れかけた触感の記憶が呼び覚まされそうだ。そして連作の中央部に位置するB1サイズの3連作は圧巻で、ベージュの背景に4人の女性達が絡みあう群像写真は一個の生命体のようにもつれ合い、体温、湿度を発し、呼吸をしているかのようだ。縦置きの作品の4人のモデルが複雑に絡み合い、苦悶の表情を浮かべ、まさに現代のラオコーン像のようにも見え、多様なコミュニケーションツールの中で、もがきながら生きている我々の自画群像だ。

教授・寺井 弘典