卒業制作優秀作品集2018
芸術学科

論文イメージ

森 大河

吉岡実論

本論文では、吉岡実の主要な著作を取り上げながら、詩法の変遷の一途を辿り、これら著作で表現された吉岡の詩世界が孕む両義性が詩作品に、どのような影響を与えるのかを論じ、詩のあらたな可能性を探る。結果、吉岡は自身の詩法を駆使、変化させながら、あらたな詩の定型を生みだした。このような、吉岡の詩は「過去」と「未来」を通底させ、「現在」に呼び寄せる「影響機械」として存在しているのだ。

担当教員によるコメント

森大河さんの卒業論文『吉岡実論』は、特異な詩的世界を構築した現代詩の巨人、吉岡実が確立した独創的な詩法について論じたものである。吉岡は、生涯にわたって何度も、詩の書き方を、大きく変え続けていった。その変貌を導いたのは、吉岡が編み出した独自の「引用」である。吉岡の「引用」は、モダニズム詩人たちが試みた、古き伝統に還ることで現在に革新をもたらす、というものではなかった。より過激に、自己の言葉と他者の言葉の差異を撤廃してしまう。それはページの構成そのものにも及んだ。詩行を楽譜のように組み、何種類もの括弧を使い、意味を個別に伝える「言葉」と意味の全体像を包括的に示す「イメージ」の差異さえ撤廃してしまう。文学論でありながら芸術論でもある、力のこもった論考である。

教授・安藤 礼二

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