じいちゃんとわたし

山口 梓沙

作者によるコメント

わたしの祖父は耳が遠く、会話もままなりません。音のない彼の空間は穏やかで寂しく、深い安心感を覚えます。その中で写真を撮影し、写真集を制作しました。日々流れ込んでくる情報や沢山の人の声から断絶されて祖父を撮る時、安心感と同時に自分の内面に深く潜るような感覚があります。年老いた祖父と若い自分という2つを軸にして、雫やカーテン、手などのモチーフを編集しました。

担当教員によるコメント

山口梓沙が、初めて彼女のお爺さんの写真を僕に見せてくれた日のことを鮮明に記憶している。それは、庭からのやわらかい光がカーテン越しに射す陰影のあるリビングで、ソファーに深く腰掛け庭の方を見ながら、一人静かに佇んでいる、穏やかな空気に包まれたお爺さんの写真だった。この一枚の写真を見たとき、僕の目は、喜びと驚きで釘付けになった。山口梓沙の、彼女を囲む世界を見つめる眼差しに、深い奥行きと、一瞬の直感で世界を捉えることのできる恐ろしい写真力を感じた。その写真の力は我々に、我々の住むこの世界がいかに優しく穏やかで、命の喜びに満ちた奇跡の惑星なのかということを、日常の見逃してしまいそうな小さな出来事を通して、静かに穏やかに見せてくれるのだ。

教授・上田 義彦