言葉に託し、言葉を載せる。

酒元 理沙

作者によるコメント

生活の中に潜むたわいもない出来事や情景を文章に綴りました。文章の形式は様々ですが、一貫しているのはそれぞれが生活の断片であるということです。綴った文章は対象物本体に載せ、それぞれが生活の中に佇む様子を写真に収めています。文章の内容はわたし個人の経験からなるものですが、部屋の一角に文字がとつとつと佇む様子をわたし以外の誰かが見たときに、自身の生活の断片が言葉として、あるいは一つの情景として、頭の片隅に思い出してもらえたらと思い、制作しました。

担当教員によるコメント

ティッシュペーパー、焼きたてのトースト、傘、洗濯物のハンカチ、虫眼鏡、スニーカー、飴、川原の石ころ……。日常の風景の中にある何気ない「もの」たちへの想いを、日々の断片とともに作者の酒元は言葉で綴った。そして、その言葉を文字にして、その「もの」たちに丁寧に載せていく。その文字たちは様々な表情で、文章では表現しきれない感覚を生み出す。そして、その「もの」たちを、もう一度、日常の風景の中に溶け込ませ、それを写真として一枚ずつ記録する。最終的にはそれらの写真と文章を対比させて一冊の蛇腹本として完成させた。「言葉に託し、言葉を載せる」と題されたこの作品は、酒元が大切にしている日常の記憶であると同時に、見る者に日々の生活に対する「いとおしい」という感情を思い起こさせる作品となった。

教授・宮崎 光弘