どうかお達者で

渭原 百藻

担当教員によるコメント

大学生と会社員の会話だけで進行するアニメーションだが、これといった筋もないのに何度も観てしまう、一種の魔力をもった傑作である。テンポは小気味よく話題の展開は早いが、いったい何が話題なのか。焼肉をおごりつつ学生に説教をたれようとする大人と「江戸時代の犬以下」の食生活に甘んじる学生ふたりの話題とは、呆れるほどシニカルな世評であり、そこではすべてが軽く薄く横滑りしてゆく。それなのに現実感があるのは、絵と会話と音楽とが一瞬の隙もなく作り込まれた緻密な構成の故だろう。色のトーンや音声と文字の重なり具合など、工芸品的な完成度を見せており、そこに夏目漱石を絡ませるという離れ業まで披露する。「地獄案件」しか待っていない明日に、「どうかお達者で」と言わせるだけの力をもった、驚くべき才能の登場である。

教授・港 千尋

作品動画