最後の紙幣
藤野 頌子
作者によるコメント
いつかくる未来の、世界共通の紙幣を想像した。
キャッシュレス化はこれから先も社会に自然に浸透し、紙幣や硬貨などの現金を目にする機会はさらに少なくなっていくだろう。そんな時代が訪れたとき、宙ぶらりんになった紙幣ははたしてその存在をどう肯定するのだろうか。
私はこれからの紙幣の存在は、市民にとってのトークンのようなものへとうつりかわっていくのではないだろうかと推測する。ミレニアル世代と呼ばれる人々が社会の中核をなすにつれ、お金はかつてほどの執着を抱かれなくなった。「価値」あるいは「富」の生々しいメタファーだった紙幣も、長方形の紙というフォーマットだけを残した、何かがあった時のために持っておくお守りのようなものに近くなるのかもしれない。
お金としての歴史と印刷物としての歴史、両の側面から紙幣を考察し、実制作にいたるまでの過程を展示した。
担当教員によるコメント
キャッシュレスになっていく今日、価値がなくなりつつある「紙幣」。それを世界共通の「最後の紙幣 PACE」として、愛おしくお守りのような存在にしようとする意欲的なデザインだ。未来的で有機的な矢印をモチーフにし、紙媒体ならではの物質感を大切にホログラムや箔押しで仕上げている。
最終的な仕上げのアートディレクションが秀逸。考え方のプロセス、紙幣の歴史など、藤野の紙幣への造詣の深さが伺える(このボードのレイアウトの完成度が非常に高い!)。テーマも実際の定着も難易度の高く、ともすれば表面的なデザインで終わりそうなところを藤野は徹底的な検証と印刷におけるテクニックで高度に定着している。その定着への執念と厳しい眼差しは藤野のデザイナーとしての武器になっていくことだろう。卒業後、どんなデザインで頭角を表すか、楽しみでならない。
教授・佐野 研二郎
- 作品名最後の紙幣
- 作家名藤野 頌子
- 作品情報グラフィックデザイン、コミュニケーションデザイン
技法・素材:紙
サイズ:W160×H76mm(4点)、W625×H297mm(11点) - 学科・専攻・コース
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