齋藤 輝志

担当教員によるコメント

茫漠とした大地を思わせる石塊。乳白色の表面をなぞる視線は自ずと中央の穴へと吸い込まれてゆく。古より人々は洞穴を住居や祭礼の場として、時には黄泉の国への入り口として畏怖とともに様々な神話や風習を伝えてきた。また、古代中国では死者の九竅(きゅうきょう・肉体の九つの穴)に葬玉を入れ死後の再生を願ったように、穴は異界へのワームホールでもあったのだ。この彫刻は彷徨う流浪の民のように鑿を走らせているうちに、どうやら此岸と彼岸が出会ってしまったようだ。可視化される表面に不可視の内部である「闇」を構造的に内包させることで、物質表面の視覚的な触覚性とともに、より肉体的で本能的な官能性、つまりエロスを獲得している。黄泉の国へ誘うかのように。

教授・水上 嘉久