私風景

尾上 あさひ

作者によるコメント

日常の傍にある風景は、いつも同じでどこか違っている。
日々、穏やかな光と小さな絶望とが絡み合って、刻々と、確実に成長していく。
その風景を眺めているだけの幸せが、突然切られてなくなってしまう前に、すべて焼き付けてとどめておきたい。

担当教員によるコメント

気配と空気感に満ちた写真だ。
熟練した写真家と見まごう程、尾上あさひの写真には強く引き込まれる何かが写されている。
例えば老婆の手が写されている写真には最小限の情報が写っている。薄い皮膚に浮かぶ青い血管と年を経たシワ、それに長年着込んだ服の袖が適切な量感で写り込んでいる。情報はこれだけで十分だ。それ以上でも以下でもない、適切な量感と質感で、見ることの快感に包まれる。自然に老婆の全体像が、気配が、浮かんでは消える。
目を離すまでそれは続く。他の写真も同じだ。
尾上の写真には期待せずにはいれない何か強いものを感じる。

教授・上田 義彦