裏の命/The Life Beyond

三井 悠華

作者によるコメント

人間は自然環境や生き物を壊しながら生活をしている。
この作品を描くきっかけは、昨年の夏、ボロボロの大型トラックで屠殺場に運ばれていく家畜の最後の姿を見た事から始まった。
家畜の命は産まれながらにして人間が所有し、命の時間も人間が決めている。そして、知らないうちに加工され食用として店頭に並び消費されていく。こんな自分の知り得なかった裏の世界があるとハッキリ意識した時、私が出来る事は、その日に見た家畜の姿について話す事、絵画で命の循環と再生は繰り返されるという事を表現するしかなかった。自然環境に対しても同じことが言えると思う。これからも、表があれば必ず裏がある、日差しが強ければ、影もまた濃くなるそう意識しながら作品制作に取り組みたい。

担当教員によるコメント

回転しながら浮遊する鳥のフォルムが、空間を埋め尽くしている。更に加速度を益し、画面の外へと飛び出して行く。大胆且つ極めて動的な構図。観る者は先ずそのスケールに圧倒される。勢いよく大きな固まりで鳥の形体を捉える一方、色彩に置き換えた羽根のグラデーションが美しい。一羽一羽をよく見ると、別に染めた和紙をカットし、丁寧に一枚一枚張り込んでいることが判る。風をはらむその形体も含め、細部に至る作者のこだわりが心地よい。この明るさとは裏腹に、鳥の頭(かしら)は何処にも描かれてはいない。この絵のテーマが、そこに隠されている。「いのち」を永らえる為に、他の「いのち」に手を出さなければならない「存在の悲しみ」。日々失われる「いのち」に向けた三井の静かな祈りが、この作品にこめられている。

教授・武田 州左

  • 作品名
    裏の命/The Life Beyond
  • 作家名
    三井 悠華
  • 作品情報
    技法・素材:アクリル、水干絵具、水性ペン、雲肌麻紙
    サイズ:H2273×W3644mm
  • 学科・専攻・コース