オートルの部屋

石川 硝

作者によるコメント

ただ在ることを認める。苦しみや混乱を、気配を、過剰でもなく。
ものと向き合う。対峙する。

絵画では、貧しさから出た静物画を多く描いている。机の上は個人的なできごとが展開される。現れたそれをみつめて、描く。どうして机と椅子があるのだろう。

机と椅子の制作は2回目だ。1回目は、一杯のお茶を差し出すことただその行為と、臨床の場への実践的な探求が大きいものだった。そのとき私の身体に合わせて作られた椅子は、他人の身体に痛みを与えることがあった。

今回の『オートルの部屋』には、脆いために誰も座れない椅子がある。もう背もたれが背中に食い込むことも、安心しているところ重さで突然壊れることもない。影か気配か。気配そのものになるような個人的な領域。

自己と他者、物と自分。さまざまな関係がある。
私を含む、鑑賞者と反射するもの。

担当教員によるコメント

かつてこの作家は、ちいさな木の椅子と机を作り、客人を招くパフォーマンスをしたのだった。しかし作家の不在中、訪ね来た者がその椅子に座った際、椅子は重さに耐えられずに壊れてしまった。「オートルの部屋」と名付けられた誰も座れない脆く細い椅子とテーブルを作ったのは、この出来事がきっかけだった。むしろすべての存在と向き合うため、作家は影や、気配、あるいは移ろう時間を招こうとしたのだ。つまりこれは「存在」そのものと向きあうための椅子と机。作家は自分の机も繰り返し描いてもいる。卓上にテンペラのための溶かれた卵黄がボールに張られている。自分の仕事を見つめることに他ならない。自分も含めたすべての存在を招き入れる場所を作り、静かに向かい会おうとしている。

教授・石田 尚志

  • 作品名
    オートルの部屋
  • 作家名
    石川 硝
  • 作品情報
    素材・技法:キャンバス、油彩、木材、粘土
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース