and then it repeats

石川 ひかる

作者によるコメント

生きていくなかで繰り返す出来事は、すべてが限りなく同一であって同一ではない。繰り返しの中で微妙な変化を遂げながらつづくものだと感じる。

一度抱いた感情や考えが、必ずしもまた同じ出来事に向きつづけるわけではない。微妙に変化して流動していく。これらは私の中で起こっていることであって、決して目に見えて表に出ることはない。その自分の中にあるものを再びなぞり絵にしていくことが、私にとってばらばらとした思考を繋ぐことであり、自分の中の考えを確固たるものにしていくことである。

担当教員によるコメント

透明感のある絵具を染み付けるような塗りで描かれる不思議な形の人の姿が印象深い。モチーフがばらばらに散在する画面を、変幻し浮遊する人の姿がまとめる役割を果たしている構造が独創的だ。卒業制作ではそのような絵画作品に加え、以前から取り組んでいる刺繍による作品や、木彫りや石膏でつくった立体物、さらに照明や窓からの自然光、水滴が滴る音を繊細に組み合わせて一つの空間を見事につくり上げた。植物の水やりや父親に車で送り迎えしてもらっていた思い出など、日常の記憶の中で何度も繰り返していることをイメージの出発点としている。毎日大学のアトリエに通い、静かにとりとめなく手を動かして制作する反復的な行為からは、日常と制作が自然に混じり合っている様子がうかがえた。その真摯な制作態度が作品の魅力に表れている。

准教授・日野 之彦