私的巡礼ツーリズム お見合い編(当時の母と父の格好をして、2人が出会った場所を訪れる。), 母と父のお見合い写真に扮するセルフポートレート

阪口 智章

作者によるコメント

母から私を産む前の母の話を聞いたことがこの活動のきっかけとなった。そこで、私はそれまで知らなかった当時の母の赤裸々な心情を知った。しかし、その内容は性別や境遇の違いから私にはリアリティが湧かないものでもあった。
母は母の人生を生きている。そんな当然の事を今更実感する事となった。そして、それは父にしても同様の事であった。そんな事を再認識してから、私が暮らしてきたその家庭という場所は偶然と必然が入り混じり、曖昧なようで、はっきりもしていてる奇妙な佇まいを見せ始めた。

私は改めて、私の家庭という場所と、そこに当たり前にあった私を含めた3つの身体の存在をもっとよく見つめてみたいと思った。

私は、2人が出会うきっかけとなった写真をその出会いによって産まれた私の身体を使って再現し、また当時の2人の格好で2人が出会った場所を訪れる事により、私の家族という共同体について、接近と追想を試みた。

担当教員によるコメント

阪口は一年生の身体表現の課題をきっかけに、パフォーマンスや映像メディアによる制作を続けて来た。アトリエの天窓に顔を押し付けながらガラスにドローイングする。草むらに一日中寝続けてその痕跡を残す。全身に自らペンで途切れなく線を描く。今から思えば、それらはある種の痛みと閉塞感を伴った、言わば閉じた表現であった。しかし卒業制作では、母親自身から自分を産む前の話を聞いたことから、両親が出会った頃の写真を基に、阪口自身が当時の二人に扮し、それぞれのポートレイトと、初めての出会いの場所に向かう道程の追体験を映像によって作品化した。一人で演じているのは以前の作品と変わりはないが、両親という内なる他者を取り込むことによって、最も身近で最小の共同体への想いと、それぞれの「今ここにいる訳」に連結する、大きく開かれた作品となった。

教授・小泉 俊己

  • 作品名
    私的巡礼ツーリズム お見合い編(当時の母と父の格好をして、2人が出会った場所を訪れる。), 母と父のお見合い写真に扮するセルフポートレート
  • 作家名
    阪口 智章
  • 作品情報
    『私的巡礼ツーリズム お見合い編(当時の母と父の格好をして、2人が出会った場所を訪れる。)』
    素材・技法:映像、写真
    サイズ:可変

    『母と父のお見合い写真に扮するセルフポートレート』
    素材・技法:インクジェットプリント
    サイズ:可変
  • 学科・専攻・コース