夢宙

井上 黎

作者によるコメント

美大の卒制の中で自分1人にしか表現できない作品を作ろうと思った時に、僕が持っているものは音楽と友達でした。
僕は小さい頃からスピリチュアルの世界や「夢」を見ることが好きで今日までたくさんの「夢」を見てきました。本作は僕たちの好きな物や好きな場所が散りばめられており、まさに夢の中で遊んでいるような時間でした。冒頭からエンドロールにかけて一人にしか見えない幻覚として現れる水色の蝶は、これまでの経験で確かに感じた「目に見えるものが全てではない。常識を疑う」という意味が込められています。
この3分20秒のMVに僕たちの「夢」を詰め込みました。1人でも多くの人に届いてくれると嬉しいです。これからも僕にしかできない表現を探し続けたいと思います。

担当教員によるコメント

作者はこれまでさまざまな表現方法を試みては、いつもどこか没頭できないままにいたが、MVという商業的フォーマットのビデオ制作を用いた本作『夢宙』において、初めて自身が納得する表現に成功した。制約や監視、物質的束縛が溢れる現代において、“自由な表現”を唱えるだけではアートは成立しない。井上はそういった状況を視野に入れ、創造性とプロモーションが同存するM Vを通しアート制作を試みたのではないか。オートチューンのかけられたジェンダーレスの声で歌われる不可視の世界観は、ヒラヒラと舞う青いモルフォ蝶に象徴され、自由や創造性のその所在の危うさを示唆する。さらに、モニター外の壁にモルフォ蝶標本が設置される展示では、可視・現実・死の記号が付与され、硬質な空間が生まれた。一見ただのMVと見える作り込みの背後に、作者のシニカルで挑戦的な批評精神が宿る秀作である。

教授・笠原 恵実子

作品動画