卒業制作優秀作品集2022
彫刻学科

山田 実紀

ちち

技法・素材:陶土、石膏
サイズ:各 H1100×W400×D400mm

作品自体はシンプルにしたかった。ブリンカーを模した膜と雌の蚕蛾に繋がれた、それぞれの生命。直に置くことも忍びないので、冷たいベッドを用意した。これらを家族や自分、社会に当てはめてもいい。義務感で当てはめるものではない。そっと彼らの様子を見ていてくれればいい。私は生きることが怖い。無垢な子の様に、常にみんなと笑って過ごしていたい。私は長い年月をかけて、生きる力をどこかに置いてきてしまったような気がする。これは、我が身かわいさで視野を狭めてしまったツケが回ってきたのだと思う。世界を多角的に見れば見るほど、正気を保っていられないから。しかし、身の回りの環境を維持するためには視野を広げ、触れなければいけない。気づいたら生きる力なんて持ってないのだから。生きる権利を誰かに利用されてしまうのだから。私は世界に淘汰されることが怖いのだ。

担当教員によるコメント

男の赤子には視野を遮る様に透明のブリンカーが備わっている。女の赤子は臍の緒で繋がった蚕をその小さな掌に握りしめている。無抵抗な「母親」は今にでも自らの子によって握りつぶされてしまいそうでもある。
作者は20匹の蚕を自宅で飼育し徹底的な観察と思考、制作を続けてきた。
蚕は人の飼育によってのみ生きることの出来る純粋な家畜動物で、絹となる繭を作り、変態し、卵を生み10日ほどで死ぬ。成虫の体は重く、飛ぶための筋力も備えていないそうだ。
これは作者の研究と思考、実験が結実した秀作であり、レアリズムに基づく表現にも淀がない。陶・透明樹脂・蚕・石膏といったそれぞれの素材の扱いの巧みさは全く自然に熟されている様に見えるが簡単なことではない。

講師・中谷 ミチコ

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