鉛筆デッサン
デッサンに関してはやや期待外れであった。大半は「湿度」を水滴で表すなど、ステレオタイプな回答ばかりが目立ち、イメージの貧困さを感じた。また、CD-Rを口にくわえている作品も多く、制作の手がかりとして何がなんでも自画像を取り込むという、あらかじめ用意された対策が垣間見える。このようなデッサンは出来るだけ採らないように心掛けたのだが、あまりにもそのような作品が多く、残念ながら評価の基準を広げざるを得なかった。
イメージとは、作品の技術的な充実度とはべつに、個人の経験による解釈に源があるとすれば、ほとんどの場合、受験として効果的な戦略に忙殺されてしまい、その源までには立ち向かえなかったと言うことなのだろうか。
油彩「人物」
昨年に比べ、ユニークな作品は少なかったように思う。もちろん奇をてらったものを期待しているのではないが、技術的なレベルでの向上が、一方では平均化という傾向をもたらしている感は否めない。
作品の技量、表現力が水準以上であれば合格の可能性大だが、上位合格者の作品は、技量というよりも、トータルな意味での表現力が優れていると言える。たとえば、本年度も複数の作品で見受けられる問題点として、背景を同一のパターンで処理している作品、顔のうちの鼻と手のみにポイントをおく作品等は、類型化しているという点においては表現力があるとは呼べないだろう。デッサンにも言えることだが、表現力とは技術・技法だけではなく、個人の経験によって成り立つ感性にあるとするならば、受験という緊張状態を考慮したにせよ、その新鮮で素直な表現をあくまでも理想として挙げておきたい。