描くための技術や感性が要求されるのは当然であるが、それのみで制作される作品には魅力がない。今回は、下記の点に採点のポイントを置いた。
1. 出題に対して真正面から取り組んでいるか。
2. 出題に対して自分なりの工夫を試みているか。
3. 発想や主張などの思考のあとがみられるか。
4. 表現したいという強い意欲が感じられるか。
5. 個性や可能性が感じられるか。
鉛筆デッサン
デッサンにおいては、例年見受けられる傾向ではあるが、出題を無視してモチーフ(粘土)と関係なく「顔」や「手」を主役にし、テクニックのみを見せるような作品が多く見られた。「沈黙」という言葉によるテーマを、各自の発想のてがかりや主張のヒントとして積極的にとらえ、利用してほしいと思っていたのだが、関わり方が少ない印象を受けた。
そんななか、高い評価を受けたものは、テーマに沿ってモチーフ(粘土)に積極的に取り組み、あるいは積極的に造形し、さらに鉛筆デッサンの表現のなかにも個性が感じられるものであった。
油彩「人物」
油彩においても、どんな問題が出ても“自分流に描く”と決めこんで入試に臨んだところ、テーマ「旅する人」が与えられ、すぐに発想を切り替えてテーマに沿って制作した人と、あくまでも自分の決めこみで描いた人がいたことがはっきりと感じられた。前者は、電車やバスの車内に人物を配したり、自然や街の様子を背景に入れたり、コスチュームに旅の香りを感じさせようとしたり、帽子やバッグ、小物を描き込んだり、人物の表情や視線などにもその思いを映しこんだりと、作品はバラエティーに富み、その発想や工夫は大変興味深かった。後者の作品は、単なる人物画の域を出ず、その人の主張が感じられないものが多かった。 |